そのままの君が好きだよ
「殿下のお名前なんて……とてもじゃないけど呼べませんわ」


 昨日までなら――――ジャンルカ殿下の婚約者であった頃ならば、まだ呼べたかもしれない。けれど今のわたくしは、侯爵を父に持つしがない小娘。殿下に話し掛けることすら儘ならないのである。


「ディアーナは真面目だね」


 そう言ってサムエレ殿下は笑う。呆れるような声音に、少しだけ心が荒んだ。けれど、そんなわたくしの様子に気づいたのか、「褒めているんだよ」と言って、殿下は空いている向かいの席に腰掛けた。


「君のその様子……どうやら噂は本当なんだね」

「……え?」

「俺なら文句を言うけどな」

「……? 誰に、ですの?」

「兄上と、その辺で隠れて悪口言っている奴らだよ。だってそうだろう? これまでおべっかばっか使ってた奴等が、兄上の身勝手な婚約破棄をキッカケに手のひら返したみたいに陰口言うなんてさ。性格悪すぎ。
この程度のことで、自分がディアーナよりも上に立ったとでも思ってるのかな? ホント、馬鹿みたいだ。言いたいことがあるなら直接言えって」

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