色褪せて、着色して。~悪役令嬢、再生物語~Ⅲ

「君を薔薇園に招待しよう」

 比較するのは良くないって言われるけど。
 スズランとルピナス・・・2人の能力の差は日々離れていく。
 将来、2人とも音楽の仕事に携わることはないのだと思う。
 きっと、趣味の一つにと考えてピアノを習わせている。
 スズランは努力型、ルピナスは天才型だと気づくのに時間はかからない。

 スズランは少しでも注意すると「いやー」と叫んで出て行ってしまう。
 だから、ひたすら褒めまくるしかない。
 ルピナスといえば、未だに喋ったことがない。
 ルピナスに話しかけると、代わりにカレン様が答えるという図が出来上がっていた。
 ルピナスの表情から喜怒哀楽が読み取れないので、さっぱりわからない。
 ただ、言われたことを実行する男の子・・・
 教える時間が重なるほど、モヤモヤするのはなんでだろう。

「先生、それではごきげんよう」
 カレン様の挨拶に「ごきげんよう」と言って頭を下げる。
 カレン様とルピナス、侍女の3人が見えなくなるまで見送って。
 帰り支度を始める。
 初めて来た頃は、この講堂は居心地良いなと思っていたけど。
 騎士団の人に出くわすと色々と面倒だということがわかったので、さっさと帰ろうと思った。

 カバンを手に取って。
 外に出ると、何故か壁があった。
 見上げると、制服を着た背の高い男がずしーんと仁王立ちしている。
 どれだけ背が高いのだろう?
 見上げると、スキンヘッドの頭にサングラスをかけた怖そうな騎士団の男だ。
 男は何をするわけでもなく、立っている。
 また、私は不審者と思われているのだろうか。

「アハハハハ」

 笑い声がして、声の方を見るといつぞやの陛下が笑って立っている。
「やっぱり、メグミの外見の怖さは誰が見ても一緒ってことかあ」
「めぐみ?」
 この熊のようにイカつい男がメグミ!?

「おい、下がっていいぞ」
 陛下はサングラスをかけているので表情は読み取れないけれど。
 多分、笑顔ではなく冷たい声で言った。
「御意」
 メグミと呼ばれる男性はジャンプしたかと思うと。
 一瞬で目の前から姿を消した。

 陛下はサングラスを取ると、にっこりと笑ってこっちに近づいてくる。
「君を薔薇園に招待しよう」
「へ?」
< 15 / 93 >

この作品をシェア

pagetop