色褪せて、着色して。~悪役令嬢、再生物語~Ⅲ
「私ね、今。スカジオン王国に住んでいるのよ」
 何故か、私がスカジオン人だと知ったサクラ様は喜んで私を舞台の上に呼んで、食事と飲み物を用意してくれた。
 舞台に上げられたら余計目立っちゃうじゃないかと思ったけど。皆、舞台の上なんかに目もくれていなかった。
「今日は、どうしてもこのパーティーに参加してくれっていうから来てやったんだけど。知っている人いないし、全然楽しくないんだもの。クリスはいいわよ、普段の顔見知りが沢山いるんだから」
 そう言って、サクラ様は舞台の下で談笑しているクリス様を見つめた。
「えと、つまりサクラ様とクリス様は遠距離恋愛中ってことですか?」
 なんで、私はお偉いさんとご飯を食べているんだろうと思いながら、オードブルを口にする。
「そう! スカジオン王国は本当に便利よね。一度、便利に浸かっちゃうと抜けられなくなるわあ」
 アハハハと笑うサクラ様に、見た目と違う人だなと思った。
 さっき挨拶した時は、めっちゃ不機嫌だったのに。
 口をもぐもぐと動かしながら、何故サクラ様はスカジオン王国に住んでいるのか…疑問に思ったけど、こっちから質問するのは失礼な気がして()くことが出来ない。
 サクラ様は目の前に用意されている食事に全く手をつけていない。飲み物を少し飲むだけだ。
貴女(あなた)、すっごく髪の毛サラサラよね? 自分の国からシャンプーとか持ってきてるの?」
 サクラ様は椅子を近づけてきて、勝手に私の髪の毛をつまんで触ってくる。
 …自由な人だ。
「いえ、うちの侍女がハーブ入りのシャンプーやトリートメントを作ってくれるので」
「マジで? 今度、その侍女紹介してほしいわ」
 大声を出してサクラ様が言った。
 コロコロとよく笑い、ガンガン喋り続けるサクラ様。
 初対面だというのに、私のことなんか気にせず親し気に話す。
 自分の普段の生活を話したかと思えば、今度は私の私生活での質問を矢継ぎ早に受けた。
「太陽が海外のお嫁さん貰うって何か不思議な縁よね。でも、お似合いだわ」
「サクラ様は夫のことをご存知で?」
 このパーティーにいる騎士団だけでも50人以上はいるというのに。
 サクラ様は太陽様のことを知っているような口ぶりだ。
「知ってるわ。ローズ…あ、国王の呼び名なんだけど、あいつがお気に入りだって前言ってたから」
 サクラ様は一口サイズのチョコレートを口に放り込んだ。
 気づけばテーブルの上はデザートで埋め尽くされている。

 周りの大人が勝手に決めた結婚だと、ざっくりとサクラ様に説明したけど。サクラ様は「そう…」と言ってそれ以上は聞いてこなかった。
 今は、王家専属のピアニストとなって、スズランとルピナスにピアノを教えていることを伝えた。
「カレンは元気にしてんの? 会う暇ないのよねえ」
「元気にされてますよ。いつもピアノのレッスンには付いてこられますから」
「ふんっ。相変わらず過保護ねえー。やりにくいでしょ?」
 意地悪そうにサクラ様が言うので「そんなことないですよ」と全力で否定する。
「私ね、昔。カレンの侍女していたのよ」
「侍女ですか!?」
「そっ。まだお互い十代の頃だったわー」
 サクラ様が侍女なんて、想像が出来ない。
 どっちかと言えば、サクラ様が主人でカレン様が侍女をやってそうな雰囲気に見えるからだ。(失礼になるけど)
 ワイングラスを持ち上げて何かを思い出したのかサクラ様はクスクスと笑い出した。
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