色褪せて、着色して。~悪役令嬢、再生物語~Ⅲ
 ただただ、今のつまらない生活を変えたい一心だったと思う。
 入ったら、二度と出ることが許されないという王家の領地に踏み入れることになった。
 宮殿には、王様や王子様、そのご家族が住まわれていて。
 少し離れたところに、国家騎士団の本拠地があって、寮があって。
 王族の関係者が住む町があって…

 ティルレット王国の中に、更に小さな国があるような感覚だった。
 厳重な警備のもと、ジャックさんに案内された家は屋敷とは言えない一軒家だ。
 以前エアーとして暮らしていた一軒家に似ていた。
 とんがり屋根に壁は薄い青色のおうちだ。
「ピアニストということで、ささやかながらグランドピアノを用意させていただきました」
 にっこりと笑うジャックさんの笑顔に打ちのめされそうになったけど。
 横に立っていたバニラが「やっべえ…」と小さな声で言ったので、我に返った。

 ジャックさんが行ってしまった後、
 さっそく家に入って、ピアノを確認した。
 新品のピアノのように見えた。
「バニラ、ついてきてくれてありがとう。あと、ごめんね、勝手に決めちゃって」
 今更ながら、バニラに謝る。
「何、言っているんですか! ティルレット王国の王家に近づけるだなんて、一生に一度あるかないかですよ。逆に感謝したいくらいです」
 嬉しそうにバニラが言うので、ほっとする。
「とりあえず、荷物の整理しようか…」
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