色褪せて、着色して。~悪役令嬢、再生物語~Ⅲ

世の中なんて理不尽極まりないものよ。

 誰かに教えてもらいたい。
 国王に抱きしめられたら、一体。どうするのが正解なのかを…

「マヒル様! 国王からご寵愛を受けて略奪愛を狙われているというのは本当ですか?」
 翌日。
 バニラに言われて、やっぱり噂ってすぐ広まるのねと思った。

 朝食はどうしても喉を通らなくて。
 バニラがかぼちゃのポタージュを作ってくれたので、それをゆっくりと食べる。
 昨日、夢だったらどれだけ良かったのにと願ったけど。
 現実はやっぱり…事件として噂となり。
 気づけば、伝言ゲームのように事実から尾びれがついていって随分と着色された事件になってしまっている。
 バニラの言うことに「違うから」と否定して一つずつ説明する。
 バニラには国王と度々、顔を合わせていたということは伝えていなかった。
 国王とは顔見知りで挨拶する程度で、国王は太陽様を気に入っていて…
 と説明しているうちに。
 何で、あの人は私を抱きしめたのかわからなくなる。
 からかっているのか…

「抱きしめられたことに関しては身に覚えがないと?」

 一通り説明した後で、ふむふむとバニラが考えている。
「バニラ、国王との出来事は誰にも言わないでね。もっとややこしいことになるから」
「勿論です。わたくしこれでも、王家に仕えていたんですから!」
 バニラは手を胸にあてた。
「やはり、マヒル様は魔性の女なんですかねえ。その美貌は周りの男を狂わせる…」
「ちょっとお、美人なのは認めるけど。男を狂わせるって何よ!」
 思わず大声が出た。
「しかし、国王が抱きしめてきたということは、少なからず好意をもたれているかと…」
「絶対にからかっているだけでしょ。ああ、国王突き飛ばしちゃったよお~」
 身近にいるから忘れているけど。相手は国王だ。
 思いっきり突き飛ばした。
 そして逃げてしまった。
「処刑されたら、どうしよう…」
 自分の失態にガタガタと身体が震えてくる。
「処刑はないと思いますが…嫌な予感はしますねえ」
「それって、妖精の勘ってやつ?」
 バニラの勘はほぼ100%で当たるから恐ろしい。

 朝からワーワー叫んでいると。
 乱暴に玄関のドアがノックされた。

「太陽夫人、おられますかー?」

 男性の声だった。
 私は叫ぶのをやめて、バニラを見た。
「はい、只今。開けます」
 バニラは、玄関へと急ぐ。
 …バニラの嫌な予感は当たった。
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