色褪せて、着色して。~悪役令嬢、再生物語~Ⅲ
馬車は、立ち入り禁止区域をどんどん進んでゆく。
何度も門をくぐって、そのたびにクリスさんが顔を出して「通してねー」と門番に言って。(顔パス?)
奥に進むほど、心臓がバクバクしてきて。
「そんなに怖い顔しなくても、大丈夫だよ」
とクリス様に励まされたけど、嫌な予感しかない。
逃げ場のない…と感じるような重々しい所。
建物の前に止まると。
クリス様がエスコートしてくれて、馬車を降りる。
入口には門番2名。
クリス様が「蘭に会いに来た」と言うと、門番は扉を開けてくれる。
無機質で何もない殺風景な建物の中をクリスさんが歩き、その後ろを私が追う。
扉をノックして、「連れてきた」とクリスさんが言う。
「入れ」という男性の声に、手のひらにかいた汗をささっとドレスで拭って。
「失礼します」
声が震える。
中に入ると、目の前には黒髪に碧色の瞳をした男性と。
その横には遠慮がちにカレン様が立っている。
てっきり、蘭様だけかと思っていたのにカレン様もいるのは何故か。
「はじめまして。太陽の妻、セシル・マルティネス・カッチャー。呼び名はマヒルです」
「挨拶はいい。そこに座れ」
ぎょろりと、碧色の目がこっちを睨む。
蘭様は相当、ご立腹らしい。
さっきから貧乏ゆすりがとまらない。
蘭様とカレン様の前に座る。
見るからに美男美女の夫婦だ。
ドアがパタンと開いてクリス様が退出する。
蘭様を見て思ったけど、ローズ様と全然似ていない。
黒髪に褐色の肌、特徴的な碧色の瞳は外国の血が流れているのだろうか。
スズランはどっちかと言えば、蘭様に似ているから小麦色の肌だということに納得する。
蘭様はじろじろと私を見つめる。
初対面だというのに、どうしてじろじろ見るんだろと思いながら蘭様に微笑みかけると。
蘭様はくっと、怖い顔になる。
「単刀直入に言う。子供たちにピアノはもう教えなくていい。会わなくていい」
「……」
もっと、酷い言葉を浴びせられる覚悟で来ていたので。
思いのほか、優しい言葉だ。
「わかりました」
こういうのは、長引かせないほうがいい。
頷く。
「理由は言っておいたほうがいいか?」
どさっと蘭様は姿勢を崩してソファーにもたれかかる。
さらさらと黒い髪が流れる。
そういえば、蘭様は制服姿ではない。
白いシャツに黒いスラックスというシンプルな服装だ。
王子様というと、どうしても童話に出てくるようなキラキラした衣装しか想像出来ないけど。
実際、王子様も王様も実用的で動きやすい服装をしている。
「理由は必要ありません」
聴く必要はない。
私は立ち上がって。
「今までお世話になりました」
頭を下げる。
さっさと帰ろう。
退出を試みようとドアの方へ歩こうとすると、「待って!」と引き留められる。
カレン様の声だ。
「ねえ、マヒルさん。私にピアノを教えてくれないかしら?」
何度も門をくぐって、そのたびにクリスさんが顔を出して「通してねー」と門番に言って。(顔パス?)
奥に進むほど、心臓がバクバクしてきて。
「そんなに怖い顔しなくても、大丈夫だよ」
とクリス様に励まされたけど、嫌な予感しかない。
逃げ場のない…と感じるような重々しい所。
建物の前に止まると。
クリス様がエスコートしてくれて、馬車を降りる。
入口には門番2名。
クリス様が「蘭に会いに来た」と言うと、門番は扉を開けてくれる。
無機質で何もない殺風景な建物の中をクリスさんが歩き、その後ろを私が追う。
扉をノックして、「連れてきた」とクリスさんが言う。
「入れ」という男性の声に、手のひらにかいた汗をささっとドレスで拭って。
「失礼します」
声が震える。
中に入ると、目の前には黒髪に碧色の瞳をした男性と。
その横には遠慮がちにカレン様が立っている。
てっきり、蘭様だけかと思っていたのにカレン様もいるのは何故か。
「はじめまして。太陽の妻、セシル・マルティネス・カッチャー。呼び名はマヒルです」
「挨拶はいい。そこに座れ」
ぎょろりと、碧色の目がこっちを睨む。
蘭様は相当、ご立腹らしい。
さっきから貧乏ゆすりがとまらない。
蘭様とカレン様の前に座る。
見るからに美男美女の夫婦だ。
ドアがパタンと開いてクリス様が退出する。
蘭様を見て思ったけど、ローズ様と全然似ていない。
黒髪に褐色の肌、特徴的な碧色の瞳は外国の血が流れているのだろうか。
スズランはどっちかと言えば、蘭様に似ているから小麦色の肌だということに納得する。
蘭様はじろじろと私を見つめる。
初対面だというのに、どうしてじろじろ見るんだろと思いながら蘭様に微笑みかけると。
蘭様はくっと、怖い顔になる。
「単刀直入に言う。子供たちにピアノはもう教えなくていい。会わなくていい」
「……」
もっと、酷い言葉を浴びせられる覚悟で来ていたので。
思いのほか、優しい言葉だ。
「わかりました」
こういうのは、長引かせないほうがいい。
頷く。
「理由は言っておいたほうがいいか?」
どさっと蘭様は姿勢を崩してソファーにもたれかかる。
さらさらと黒い髪が流れる。
そういえば、蘭様は制服姿ではない。
白いシャツに黒いスラックスというシンプルな服装だ。
王子様というと、どうしても童話に出てくるようなキラキラした衣装しか想像出来ないけど。
実際、王子様も王様も実用的で動きやすい服装をしている。
「理由は必要ありません」
聴く必要はない。
私は立ち上がって。
「今までお世話になりました」
頭を下げる。
さっさと帰ろう。
退出を試みようとドアの方へ歩こうとすると、「待って!」と引き留められる。
カレン様の声だ。
「ねえ、マヒルさん。私にピアノを教えてくれないかしら?」