英雄閣下の素知らぬ溺愛
「恐れながら、私は閣下よりも社交の場に参加させて頂くことが多いと思うのですが、あの場にいた方々はそれぞれ、普段は別の方と共に過ごされています。それについては、私も違和感がありました。だからこそ私のように、好奇心で集まっているのかと思っていたのですが……」



 「見なかったのです」と、ディオンは不審そうな様子で続けた。



「ああいった場所も一種の社交界ですから、同じ場所に誰が顔を見せているのかは、常に把握するようにしているのですが。……あの日、あの方々と普段行動を共にされている方は、誰もいなかったのです」



 ディオンの言葉に、カミーユもまた首を傾げる。普段から共に過ごしている、気心の知れた者たちではなく、一緒にいる所を見たこともないような者たちと共に、オペラハウスに顔を出していたというのは、何とも不思議な話だった。しかも、その面々が揃って、シークレットルームに押し入って来る、なんて。

 もしかしたらあの日、あの場に彼らが居合わせたのは、偶然ではなかったのだろうか。



 まさかとは思うけれど、アルベール様か、もしくは私に会うためにわざわざ来られたのかしら……?



 そう考えた方が、辻褄は合いそうだ。けれど一体、何のために。それに、もしそうだったとしたら。

 あの日、自分とアルベールがあの場を訪れることを知っていた、ということになる。

 シークレットルームは、オペラハウスに一つしか存在しない。そのため、その部屋に訪れる者が誰なのか、オペラハウスの従業員ならば自ずと知れるわけだけれど。

 警備などの点からしても、その部屋の特性上、情報を他者に漏らすのは大変な問題である。



「……あの面々に、共通点のようなものはないだろうか。些細なことでも構わない」



 表情を険しくしたアルベールが、そう問いかける。「昨夜の件とは関係ないとは思うが、……カミーユに関係している事かもしれないからな」と。

 ディオンは少し考える素振りを見せた後、すぐには思いつかなかったらしく、ゆっくりと首を横に振るだけだった。



「二人、三人ならともかく、あの方々、全てに共通すること、というのは……」



 そう言って、彼は申し訳なさそうな顔をしていて。アルベールは静かに頷き、「何か分かったら、教えてくれ」と言うだけに留めていた。



「……それにしても、意外だったな。ブラン卿は、今回の件をカミーユ嬢に話さないつもりだと思っていたから」



 話が切れたのを見計らうように、テオフィルがそう呟いた。本当に予想外だった、というようなその口調に、カミーユは再度アルベールの方へ視線を向ける。

 彼はテオフィルの方へと視線を向けたまま、「彼女を怯えさせないために、そうするべきかとも考えたのですが」と、口を開いた。
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