英雄閣下の素知らぬ溺愛
「今回の件と言い、オペラハウスの件と言い、私は彼女の護衛に万全を期したつもりでいたのですが、……結果として、完全に護ることは出来ませんでした。これからはもっと確実にと考えており、そうであれば、黙って画策するよりも、必要な情報は彼女自身にも共有しておくべきかと思いまして」
どうだろうか、というようにこちらを向いたアルベールに、カミーユは素直に頷く。もちろん、アルベールが自分を守ってくれるというのはとても嬉しいし、有り難いことだ。けれど、である。
「私はアルベール様を信じておりますが、だからといって、何があるか分からないとも思っているのです。何も言わずにいられるよりも、状況を教えて頂いていた方が、私自身も用心できますし、何か起きた時も対応が早いでしょう」
騎士の家門である、エルヴィユ子爵家に生まれた者として、女の身であっても、護られることだけを信じるようなか弱い淑女ではないつもりだ。男性が怖くて近寄れないがゆえに、他の令嬢たちよりも他人に対する警戒心が高いと自負している。
それゆえに、必要な情報を知っているのと、全く知らないのとでは、もしもの時の反応にも差が出るだろう。そしてその差はきっと、とても些細なことでありながら、命さえも左右するものであるかもしれないと、カミーユ自身も理解していた。
また同じようなことが起こるかもしれない。そう考えるだけで、身震いするほど恐ろしいけれど。何も知らないままでいるよりは、心の準備が出来ている分、ほんの少し気が楽だった。
テオフィルはカミーユの言葉に耳を傾けた後、気が抜けたように、ふっと微笑む。「君の言う通りだな」と言いながら。
「このような場合において、君が何も知らなかったと言って責める者はいないだろう。だが、知らないからと言って相手が引いてくれるわけではない。確かにそれならば、知った上で構えていた方が良いに決まっているからな」
したり顔で頷いたテオフィルは、「では、君にもこのまま、この場に残ってもらおう」と続けた。
「君が何も知らされていなかったならば、先に帰ってもらうべきだと思っていたが。知っているならば問題ないからな」
そう言って、テオフィルは昨夜から少しだけ変わった現状を教えてくれた。
昨夜の二人の男、侯爵家と伯爵家の子息は、予想通りとでも言うべきか、昨夜の尋問以上のことを話さなかったという。そのため今日の夕刻に、囮として一度釈放するとのことだ。その経過を騎士たちに追わせる算段である。
また、休憩室に控えていたはずの使用人は、首都から少し離れたとある伯爵家の領地の、その外れにある、古い小屋へと向かったそうだ。追っていた騎士からの報告だったが、使用人は小屋から動くことなく、誰かが訪れる様子もないらしい。こちらもまた、経過を確認する、とのことである。
どうだろうか、というようにこちらを向いたアルベールに、カミーユは素直に頷く。もちろん、アルベールが自分を守ってくれるというのはとても嬉しいし、有り難いことだ。けれど、である。
「私はアルベール様を信じておりますが、だからといって、何があるか分からないとも思っているのです。何も言わずにいられるよりも、状況を教えて頂いていた方が、私自身も用心できますし、何か起きた時も対応が早いでしょう」
騎士の家門である、エルヴィユ子爵家に生まれた者として、女の身であっても、護られることだけを信じるようなか弱い淑女ではないつもりだ。男性が怖くて近寄れないがゆえに、他の令嬢たちよりも他人に対する警戒心が高いと自負している。
それゆえに、必要な情報を知っているのと、全く知らないのとでは、もしもの時の反応にも差が出るだろう。そしてその差はきっと、とても些細なことでありながら、命さえも左右するものであるかもしれないと、カミーユ自身も理解していた。
また同じようなことが起こるかもしれない。そう考えるだけで、身震いするほど恐ろしいけれど。何も知らないままでいるよりは、心の準備が出来ている分、ほんの少し気が楽だった。
テオフィルはカミーユの言葉に耳を傾けた後、気が抜けたように、ふっと微笑む。「君の言う通りだな」と言いながら。
「このような場合において、君が何も知らなかったと言って責める者はいないだろう。だが、知らないからと言って相手が引いてくれるわけではない。確かにそれならば、知った上で構えていた方が良いに決まっているからな」
したり顔で頷いたテオフィルは、「では、君にもこのまま、この場に残ってもらおう」と続けた。
「君が何も知らされていなかったならば、先に帰ってもらうべきだと思っていたが。知っているならば問題ないからな」
そう言って、テオフィルは昨夜から少しだけ変わった現状を教えてくれた。
昨夜の二人の男、侯爵家と伯爵家の子息は、予想通りとでも言うべきか、昨夜の尋問以上のことを話さなかったという。そのため今日の夕刻に、囮として一度釈放するとのことだ。その経過を騎士たちに追わせる算段である。
また、休憩室に控えていたはずの使用人は、首都から少し離れたとある伯爵家の領地の、その外れにある、古い小屋へと向かったそうだ。追っていた騎士からの報告だったが、使用人は小屋から動くことなく、誰かが訪れる様子もないらしい。こちらもまた、経過を確認する、とのことである。