英雄閣下の素知らぬ溺愛
「あの日、オペラハウスにいたあの方たちの共通点は何だろう、と。そればかり考えていたから、分からなかったのです。王宮でカミーユ嬢を襲おうとした二人の逃げた先の土地や、使用人を唆した犯人にならば共通点があるはずだと、そちらから辿っていったら、……分かりました。これらの全てに、共通することがあると」
言ってディオンは、広がった地図の三つの場所を示す。それぞれが、あの日、休憩室の前から消えた使用人と、カミーユを襲おうとして二人が潜んでいる場所であった。
「気付いたのは、ほんの昨日のことです」と、ディオンは呟いた。
「ある夜会の、男性だけが入れる休憩室で、一人の男が言っていたのです。その人物の息子が、とある令嬢に執心するあまり、別荘を贈ったのだ、と。詳しく聞いたところ、その男が気付いた時には、すでに名義も変わっていたようで。始末に負えないと言って嘆いておられました。……それが、こちらの伯爵の、この別荘でした」
そう言って、ディオンは先ほど示していた場所を再度示す。そこは、二人の男が潜んでいるという別荘の内の一つであった。
「それだけではありません」と、ディオンは更に続けた。
「今日の午前中に無理を言って会ってもらい、言葉を交わしたのですが。こちらの子爵家でも、同じようなことが起きておりました。もっとも、こちらは当主自ら、贈ったという話でしたが。そして、先程オペラハウスで別の貴族たちに聞いたところ、こちらの伯爵家の小屋は、その近くにある土地ごと、伯爵の従兄が贈ったと。……全て、同じご令嬢でした」
ぞくり、とした。伯爵家の血縁者や、子爵家の当主が、好意のみでその領地を贈る令嬢。それほどの人物。
「そこまで辿って、思い出したのです」と、ディオンは続けた。
「あの日、オペラハウスにいたあの面々、全てに共通することが。オペラハウスで友人たちに聞いて、確信が持てました。……彼らは皆、これらの別荘を贈られた令嬢の、信者のような者たちです」
真っ直ぐに告げられた言葉。テオフィルは不思議そうな顔で、「一人の令嬢に、信者って……」と呟いているけれど。
アルベールには、心当たりがあった。周囲の人間を、性別に関係なく心酔させる人物。自分はそんな人物を、昔から知っている。何せ、それなりに会う機会も多かった、従妹の一人だから。
言ってディオンは、広がった地図の三つの場所を示す。それぞれが、あの日、休憩室の前から消えた使用人と、カミーユを襲おうとして二人が潜んでいる場所であった。
「気付いたのは、ほんの昨日のことです」と、ディオンは呟いた。
「ある夜会の、男性だけが入れる休憩室で、一人の男が言っていたのです。その人物の息子が、とある令嬢に執心するあまり、別荘を贈ったのだ、と。詳しく聞いたところ、その男が気付いた時には、すでに名義も変わっていたようで。始末に負えないと言って嘆いておられました。……それが、こちらの伯爵の、この別荘でした」
そう言って、ディオンは先ほど示していた場所を再度示す。そこは、二人の男が潜んでいるという別荘の内の一つであった。
「それだけではありません」と、ディオンは更に続けた。
「今日の午前中に無理を言って会ってもらい、言葉を交わしたのですが。こちらの子爵家でも、同じようなことが起きておりました。もっとも、こちらは当主自ら、贈ったという話でしたが。そして、先程オペラハウスで別の貴族たちに聞いたところ、こちらの伯爵家の小屋は、その近くにある土地ごと、伯爵の従兄が贈ったと。……全て、同じご令嬢でした」
ぞくり、とした。伯爵家の血縁者や、子爵家の当主が、好意のみでその領地を贈る令嬢。それほどの人物。
「そこまで辿って、思い出したのです」と、ディオンは続けた。
「あの日、オペラハウスにいたあの面々、全てに共通することが。オペラハウスで友人たちに聞いて、確信が持てました。……彼らは皆、これらの別荘を贈られた令嬢の、信者のような者たちです」
真っ直ぐに告げられた言葉。テオフィルは不思議そうな顔で、「一人の令嬢に、信者って……」と呟いているけれど。
アルベールには、心当たりがあった。周囲の人間を、性別に関係なく心酔させる人物。自分はそんな人物を、昔から知っている。何せ、それなりに会う機会も多かった、従妹の一人だから。