英雄閣下の素知らぬ溺愛
分からない所は素直に訊ねて修正し、少しずつ本番に向けて整っていく会場は、五日前にはすでに、手の付ける必要がない程完璧な物となっていた。もちろん、埃のするようなものにはカバーをしており、生花などは当日の準備となるため、まだまだ殺風景ではあるけれど。あとはドレスの完成を待つのみだと、皆がそう思っていた頃のことだった。
その手紙が、届いたのは。
「これと、これと、こちらが、カミーユ様宛てのお手紙となります。ご確認くださいませ」
毎日足を運んでいるベルクール公爵邸の玄関ホール。入ってくるなり、使用人の女性がそう言って頭を下げ、手紙の載ったトレイを掲げてくる。それを受け取り、「ありがとう、助かるわ」と礼を言えば、彼女は嬉しそうに微笑んで、仕事へと戻って行った。
ベルクール公爵邸で結婚式の準備を始めてから、こういうことも珍しくなかった。
『王家の夜会という、正式な場に婚約者と共に同席してから、一か月足らずで結婚式を行うのだから。英雄閣下は、随分と婚約者を愛しておられるのだろう』
妹のエレーヌに聞いたところ、それが最近の社交界での、専らの噂らしい。『さすがアルベール様だわ!』と、エレーヌは自分の事のように嬉しそうに言っていた。
おそらくテオフィルとアルベールが意図的に流した噂なのであろうが、その甲斐もあってか、こうして早い内から交流を持っておこうとする貴族が後を絶たないのである。カミーユが子爵家の令嬢であるということも、敷居が低くなっている要因の一つだろう。
それ自体は別に構わないし、ミュレル伯爵夫人、果てはベルクール公爵夫人となる以上、こういう交流も大事だと分かっていた。だから今回も、そういった手紙なのだろうと思っていたのだけれど。
「……これは」
その内の一つに、気になる送り主の名前があるのを見て、僅かに目を細める。それと同時に、カミーユはすぐさま、ミュレル伯爵邸へと向かうことを決めた。この手紙を、アルベールに見せなければ、と。情報の共有がどれほど大事なことなのか、カミーユは理解していたから。
封を開けて、手紙の内容を確認しながら、カミーユは近くにいた使用人の女性に、ミュレル伯爵邸に向かうことを告げる。アルベールにその旨を告げる、早馬を出してほしい、とも。
ベルクール公爵邸の使用人は、カミーユが指示するのを当たり前と思っているようで。カミーユの指示通り、てきぱきと動き出してくれた。ベルクール公爵邸の紋が入った馬車を当然のように用意してくれたことには恐縮してしまったけれど。事情を聞いたロクサーヌが顔を見せて、気にする必要はないと言ってくれたため、好意に甘えることにしたのだった。
その手紙が、届いたのは。
「これと、これと、こちらが、カミーユ様宛てのお手紙となります。ご確認くださいませ」
毎日足を運んでいるベルクール公爵邸の玄関ホール。入ってくるなり、使用人の女性がそう言って頭を下げ、手紙の載ったトレイを掲げてくる。それを受け取り、「ありがとう、助かるわ」と礼を言えば、彼女は嬉しそうに微笑んで、仕事へと戻って行った。
ベルクール公爵邸で結婚式の準備を始めてから、こういうことも珍しくなかった。
『王家の夜会という、正式な場に婚約者と共に同席してから、一か月足らずで結婚式を行うのだから。英雄閣下は、随分と婚約者を愛しておられるのだろう』
妹のエレーヌに聞いたところ、それが最近の社交界での、専らの噂らしい。『さすがアルベール様だわ!』と、エレーヌは自分の事のように嬉しそうに言っていた。
おそらくテオフィルとアルベールが意図的に流した噂なのであろうが、その甲斐もあってか、こうして早い内から交流を持っておこうとする貴族が後を絶たないのである。カミーユが子爵家の令嬢であるということも、敷居が低くなっている要因の一つだろう。
それ自体は別に構わないし、ミュレル伯爵夫人、果てはベルクール公爵夫人となる以上、こういう交流も大事だと分かっていた。だから今回も、そういった手紙なのだろうと思っていたのだけれど。
「……これは」
その内の一つに、気になる送り主の名前があるのを見て、僅かに目を細める。それと同時に、カミーユはすぐさま、ミュレル伯爵邸へと向かうことを決めた。この手紙を、アルベールに見せなければ、と。情報の共有がどれほど大事なことなのか、カミーユは理解していたから。
封を開けて、手紙の内容を確認しながら、カミーユは近くにいた使用人の女性に、ミュレル伯爵邸に向かうことを告げる。アルベールにその旨を告げる、早馬を出してほしい、とも。
ベルクール公爵邸の使用人は、カミーユが指示するのを当たり前と思っているようで。カミーユの指示通り、てきぱきと動き出してくれた。ベルクール公爵邸の紋が入った馬車を当然のように用意してくれたことには恐縮してしまったけれど。事情を聞いたロクサーヌが顔を見せて、気にする必要はないと言ってくれたため、好意に甘えることにしたのだった。