英雄閣下の素知らぬ溺愛
 これからずっと、アルベール様の傍にいるためにも、……ここで終わらせておかなければ。



 むしろ、何もない所から急に襲われるようなことがないだけ良いというものである。いくらアルベールが付けてくれた護衛が、そうと分からないように周囲を固めてくれていても、また彼女に繋がる証拠がないと、考え込む羽目になるのだから。



「そもそも、こうなることが分かっていて提案させて頂いたので、ほっとしております。何もなかったら、私の考え違いになってしまいますもの。そうでしょう?」



 そう言って笑いかければ、アルベールはそれでも暗い顔をしていたけれど。ふっと、小さく微笑んでくれた。「ああ、君の言う通りだ」と。



「今回は、君に頼む他ない。陛下にも、状況を伝えておこう。君を囮になど、これ以上ない程に気分が悪いのだが、……仕方がない。そのために、この一カ月近く、用意して来たのだから」



 ぽつりと彼が呟いた言葉に、カミーユはこくりと頷く。カミーユが結婚式の準備をしている間に、アルベールが忙しくしていたのは、何も仕事のためだけではないと分かっていた。だから、大丈夫だ。きっと。

 彼が護ってくれるから、大丈夫だ。



「招待されたのは、明日か。カミーユ、くれぐれも、あの屋敷で出された物を口にしないでくれ。気になる話を陛下から聞いた。こちらの手の者を数人紛れ込ませているから、いざとなったら助けてくれる。陛下が紛れ込ませた者もいるはず。何かあれば、現行犯で決着がつく手筈だ。だから大丈夫、なんだが……。やはり、そのような場所に君を送り出すのは、嫌なものだな」



 深々と溜息を吐くアルベールは、本当に不安そうな顔をしていて。あまりに彼らしくないその表情に申し訳なくなりながら、カミーユは「大丈夫ですよ」と再度口にする。「アルベール様たちがたくさん用意してくださっているのでしょう? だから大丈夫です」と、彼が少しでも安心できるように。



「私は、アルベール様を信じておりますもの。……その代わり、ちゃんと無事に帰って来たら、あの、……ぎゅってしてもらえますか……?」



 顔を合わせてはいたからと、アルベールに見合うようにと気を張っていても、淋しいものは淋しいわけで。帰って来た時に彼が抱きしめてくれる、そう思えば、きっと頑張れる気がすると、そう思って、おずおずと頼んだのだけれど。

 急に両手で顔を覆ったアルベールは、数拍の間をおいて、頷いてくれた。手を外し、「君が望むなら、いくらでも」と言った彼の顔は少し朱かったけれど。カミーユは決意も新たに、「頑張りますわ」と呟いたのだった。
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