英雄閣下の素知らぬ溺愛
それに、アルベールがセシルを見殺しにしたとカミーユが知れば、彼女はどう感じるだろうかとも、思った。彼女が自分に怯え、距離を取ってしまったら。そのような人間だとは思わなかったと、そんな風に言われたら。
考えただけでも、怖くて仕方がなくて。結局、命を取ることをしなかったのである。
だからといって、あの女を野放しにする気は毛頭ないが。
「そう言うな。お前のおかげで、助かった人もたくさんいるのだから。……まあ、彼女の収容先は、『絞首台』と呼ばれている、キャージュ修道院だ。そう遠くない未来に、かの修道院で修道女が死んだと聞くことになるだろうが、……残念ながら、俗世の名前を捨てた人間だ。それが誰かは分からないだろうな」
罪を犯した貴族令嬢が収容される修道院。その中でも、特に過酷な環境であると言われるのが、隣国との国境付近にある、キャージュ修道院である。他の修道院とは違い、あえて劣悪な環境のまま留められたそこは、馴染むことが出来ずに自殺する者が多い。そのため、絞首台と呼ばれるのである。
セシルという女は、皇位継承権を持つアルベールを殺そうとしたため、反逆の罪でそこに送られることとなった。その上、彼女はすでに三人もの人間を殺害していた。その三人とは、先の王宮の舞踏会でカミーユを陥れようとした、使用人と元侯爵家、元伯爵家の令息である。
テオフィルが付けていた騎士たちの目の前で、セシルが指示したらしい近くの街に住む人間が彼らを訪問し、差し入れたのが、例の薬草茶の茶葉だったらしい。騎士たちは建物の中までは入れず、知らぬ間に息を引き取っていたとか。次に使用人代わりの村人が建物の中へ入って、初めて気付いたという。
彼女の家の侍女たちや使用人たちは、彼女に心酔しているらしく全く口を割らなかったが、亡くなった三人を世話していた臨時の使用人たちは、自らの罪を軽くするために、すぐさま口を割ったそうだ。セシルが指示したのだ、と。それだけであれば、言い逃れも出来たかもしれないが、カミーユやアルベールに出した毒と同じ物であったため、さすがに逃げようがなかった。
いくら勘当されているとはいえ、侯爵家と伯爵家の血筋の者を殺害した罪は重い。彼女の父親であるトルイユ侯爵でさえ、何も言えないようだった。
だからこそ、キャージュ修道院に送ることになったのだが。「そう遠くない未来、とは生温いことを」と、アルベールはぼそりと呟いた。
考えただけでも、怖くて仕方がなくて。結局、命を取ることをしなかったのである。
だからといって、あの女を野放しにする気は毛頭ないが。
「そう言うな。お前のおかげで、助かった人もたくさんいるのだから。……まあ、彼女の収容先は、『絞首台』と呼ばれている、キャージュ修道院だ。そう遠くない未来に、かの修道院で修道女が死んだと聞くことになるだろうが、……残念ながら、俗世の名前を捨てた人間だ。それが誰かは分からないだろうな」
罪を犯した貴族令嬢が収容される修道院。その中でも、特に過酷な環境であると言われるのが、隣国との国境付近にある、キャージュ修道院である。他の修道院とは違い、あえて劣悪な環境のまま留められたそこは、馴染むことが出来ずに自殺する者が多い。そのため、絞首台と呼ばれるのである。
セシルという女は、皇位継承権を持つアルベールを殺そうとしたため、反逆の罪でそこに送られることとなった。その上、彼女はすでに三人もの人間を殺害していた。その三人とは、先の王宮の舞踏会でカミーユを陥れようとした、使用人と元侯爵家、元伯爵家の令息である。
テオフィルが付けていた騎士たちの目の前で、セシルが指示したらしい近くの街に住む人間が彼らを訪問し、差し入れたのが、例の薬草茶の茶葉だったらしい。騎士たちは建物の中までは入れず、知らぬ間に息を引き取っていたとか。次に使用人代わりの村人が建物の中へ入って、初めて気付いたという。
彼女の家の侍女たちや使用人たちは、彼女に心酔しているらしく全く口を割らなかったが、亡くなった三人を世話していた臨時の使用人たちは、自らの罪を軽くするために、すぐさま口を割ったそうだ。セシルが指示したのだ、と。それだけであれば、言い逃れも出来たかもしれないが、カミーユやアルベールに出した毒と同じ物であったため、さすがに逃げようがなかった。
いくら勘当されているとはいえ、侯爵家と伯爵家の血筋の者を殺害した罪は重い。彼女の父親であるトルイユ侯爵でさえ、何も言えないようだった。
だからこそ、キャージュ修道院に送ることになったのだが。「そう遠くない未来、とは生温いことを」と、アルベールはぼそりと呟いた。