英雄閣下の素知らぬ溺愛
伯爵家の次男であるジョエルには、息子のいないエルヴィユ子爵家に入ってもらうことになっていた。そしてカミーユと結ばれた後は、跡継ぎが必要になる。カミーユとしても、いずれは触れることも出来るだろうと思っていた。
けれど、婚約を正式に発表した二年前から今に至るまで、エスコートとして手に触れる程度がせいぜいであり、抱きしめられでもしようものなら、恐怖で身体が震え出してしまう。そのような状態で結婚までするのは不可能だと、そう両家共に判断したのだった。
そんな話し合いが始まったのが、今から一年ほど前。その時に、エレーヌをジョエルの婚約者にと薦めたのは、他ならぬカミーユである。彼ならば、男性の存在に恐怖さえ覚える自分が想いを寄せる事が出来たジョエルならば、大事な妹を任せることが出来ると、そう思ったから。
もちろん、エレーヌがジョエルを気に入らなければ白紙にしても仕方がないと思っていたけれど。思ったよりも二人は息があったようで、今ではとても仲良さげに過ごしていた。
つまり何が言いたいかというと、今回の婚約の解消は、全てカミーユが誰かと結婚することが出来ないだろうということから決定されたことだということである。カミーユ自身も、下手に相手に気を遣う結果になるより、独り身のまま別荘にでも居を移して、エルヴィユ子爵家のために家の仕事をこなしながら過ごそうと考えていたのだ。
それなのに、である。
「ブラン卿は本気なのかどうか……。公爵家の嫡男で、英雄として国王陛下からの信頼も厚い方だ。もし彼が本気なら、うちのような子爵家に決定権などない。その上、彼が陛下に望んだ褒美を持ち出されれば、確実に逃げようもないだろう」
溜息交じりに言うバスチアンの言葉に、カミーユもまた息を吐きだしつつ、頷いた。
今から二年前の事、この国、ギャロワ王国の国王が、病の為に急死するという出来事があった。元々がそれほど丈夫ではない方だったが、あまりにも急だったために、当時険悪な関係であった隣国の陰謀ではないかとの噂が持ち上がった。
後に調べたところ、そのようなことはなかったわけだが、その時は国内の中枢も慌てふためき、正常な判断がつかないような状態だった。
隣国はまとまりを失ったギャロワ王国を攻め入るのにまたとない機会だと考えたらしく、ものの数日足らずで攻め込んできた。
当時の王太子であった現国王も、まだ即位の儀を終えておらず、指示する者を失ったギャロワ王国は、まさに絶対絶命ともいえる状況であった。
そんな時、国内でも王国騎士団と並び立つと称賛されるベルクール騎士団を率いて、戦争の先頭に立ったのが、ベルクール公爵家の嫡男である、アルベール・ブランだったのである。
けれど、婚約を正式に発表した二年前から今に至るまで、エスコートとして手に触れる程度がせいぜいであり、抱きしめられでもしようものなら、恐怖で身体が震え出してしまう。そのような状態で結婚までするのは不可能だと、そう両家共に判断したのだった。
そんな話し合いが始まったのが、今から一年ほど前。その時に、エレーヌをジョエルの婚約者にと薦めたのは、他ならぬカミーユである。彼ならば、男性の存在に恐怖さえ覚える自分が想いを寄せる事が出来たジョエルならば、大事な妹を任せることが出来ると、そう思ったから。
もちろん、エレーヌがジョエルを気に入らなければ白紙にしても仕方がないと思っていたけれど。思ったよりも二人は息があったようで、今ではとても仲良さげに過ごしていた。
つまり何が言いたいかというと、今回の婚約の解消は、全てカミーユが誰かと結婚することが出来ないだろうということから決定されたことだということである。カミーユ自身も、下手に相手に気を遣う結果になるより、独り身のまま別荘にでも居を移して、エルヴィユ子爵家のために家の仕事をこなしながら過ごそうと考えていたのだ。
それなのに、である。
「ブラン卿は本気なのかどうか……。公爵家の嫡男で、英雄として国王陛下からの信頼も厚い方だ。もし彼が本気なら、うちのような子爵家に決定権などない。その上、彼が陛下に望んだ褒美を持ち出されれば、確実に逃げようもないだろう」
溜息交じりに言うバスチアンの言葉に、カミーユもまた息を吐きだしつつ、頷いた。
今から二年前の事、この国、ギャロワ王国の国王が、病の為に急死するという出来事があった。元々がそれほど丈夫ではない方だったが、あまりにも急だったために、当時険悪な関係であった隣国の陰謀ではないかとの噂が持ち上がった。
後に調べたところ、そのようなことはなかったわけだが、その時は国内の中枢も慌てふためき、正常な判断がつかないような状態だった。
隣国はまとまりを失ったギャロワ王国を攻め入るのにまたとない機会だと考えたらしく、ものの数日足らずで攻め込んできた。
当時の王太子であった現国王も、まだ即位の儀を終えておらず、指示する者を失ったギャロワ王国は、まさに絶対絶命ともいえる状況であった。
そんな時、国内でも王国騎士団と並び立つと称賛されるベルクール騎士団を率いて、戦争の先頭に立ったのが、ベルクール公爵家の嫡男である、アルベール・ブランだったのである。