英雄閣下の素知らぬ溺愛
 何はともあれ、あの演目を見られると思えば、楽しみで仕方なかった。



 公爵夫人には、お礼のお手紙を送らないと……。一緒に贈るのは、お花で良いかしら……。公爵夫人に相応しい贈り物って何があるかしら。……ああ、でも、本当に嬉しい……! オペラを見る前に、もう一度小説を読み返しておきましょう。



 両手を組んで口元に寄せ、我慢できずににこにこと微笑む。
 嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。何せ、次に再演されるまでは見ることは出来ないだろうと諦めていたのだから。

 それもこれも、全て目の前の青年のおかげだ。



「本当にありがとうございます、アルベール様……!」



 満面の笑みを顔に載せたまま、カミーユは真っ直ぐにアルベールを見てそう声を上げた。本当に嬉しいのだと、そう伝わるように、しっかりと彼の藍色の目を見つめて。

 と、アルベールは唐突に口許を自身の手で覆うと、珍しく、困ったように僅かに目を逸らして、もごもごと何やら呻いた。
 かと思えば、一拍の後にその手を降ろし、その美麗な顔にこれ以上ない程の柔らかい笑みを載せる。

 「君が喜んでくれて、良かった」と、どこかほっとしたように言う彼の頬はほんのりと赤く染まっていて。
 ほんの少しだけ、可愛いと思ってしまった。
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