英雄閣下の素知らぬ溺愛
「カミーユ嬢について少々調べさせてもらったが、彼女は金にも権力にも興味はなく、社交界にもあまり顔を出していないらしいな。まあそれも仕方がないだろう。男性恐怖症になる前は、エルヴィユ騎士団の騎士たちに差し入れをしたり、怪我を治療したり、子爵と共に騎士団の裏方の仕事を色々と行っていたようだが。……全く、惜しい話だ」
ぶつぶつと呟くテオフィルの言葉は的を射ていて、アルベール自身も、そんな生き生きと騎士たちの間を走り回る彼女の姿を見ていたから、もったいない話だとは思う。
けれど。
「男性恐怖症でなければ、騎士団を率いるお前の助けになっただろうに」と続いた彼の言葉には、即座に「いいや」と否定した。
『騎士団を率いる俺』の助けなんて、必要ない。
「仕事が出来ようと、出来なかろうと、カミーユ嬢はカミーユ嬢だ。何も変わらない。彼女はそのまま、今のまま、俺の傍にいてくれればそれで良い。それだけで良い。……他の男たちの世話なんぞ、必要ない」
騎士団を率いる存在として立っている自分の周りには、多くの騎士たちが集う。表向きであろうと裏方であろうと、必ず。
そこに、彼女を、カミーユを連れてくるなんて、有り得ないのだ。
もしカミーユが男性に恐怖を覚えるようなことがなかったとしても、アルベールは同じことを言っただろう。
ベルクール騎士団の騎士だろうと、エルヴィユ騎士団の騎士だろうと、誰だろうと。彼女の傍に寄り添い、彼女が視線を向けるのは、自分だけで良いのだから。
真面目な顔でそう告げれば、テオフィルは引き攣ったような笑みを見せる。「薄々、思ってはいたんだが……」と、彼はぼそりと続けた。
「お前、執着心も強ければ、独占欲も酷すぎるよな。……頼むから、本気で監禁とかするんじゃないぞ。カミーユ嬢のためにもな……!」
「先程のは冗談なのだろう?」と、軽口のように、それでいて切実な声色で言うテオフィルを鼻で笑い、アルベールは静かに、「彼女が嫌がることはしない」と応えた。
例えそれが他人であろうと、自分であろうと。
本心がどうであろうと。
彼女を脅かすものなど、必要ないのだから。