英雄閣下の素知らぬ溺愛
「ドリアーヌ、我が娘ながら、なんと愚かな……。あれほど言ったではないか……! もう、関わるな、と」



 父であるバルテ伯爵の言葉に、ドリアーヌと呼ばれた令嬢は、その肩を震わせながら首を横に振る。「わ、わたくしは……」と口を開くけれど、それ以上、言葉が続くことはなかった。

 「令嬢はお忘れのようですが」と、アルベールは低く呟いた。



「元々、私はもう二度と令嬢と顔を合わせることのないよう、交流のある家門の方々に通達しておくつもりでした。それを、カミーユ……、エルヴィユ子爵令嬢が、そこまでする必要はないと言うからこそ、手紙で警告するだけに留めた。……だというのに、貴女はそのエルヴィユ子爵令嬢に身の程を知れと言う。……さすがに、我慢がならない」


 口にすれば、思い出すようにふつふつと怒りが湧き出す。
 あの日、カミーユが感じた恐怖を思えば、やはり野放しになどするべきではないのだと、改めてそう思った。



「忠告を無視した令嬢と、令嬢を止めることが出来なかったこちらの家門。……私は今後一切、あなた方に関わることをしないと宣言いたしましょう」


 これ以上関わっても、ろくなことにならない。カミーユのためにならないのならば、それは全て、遠ざけるべきなのだ。

 特に家門同士の付合いがあるわけでもないため、「それでは」と言って立ち上がろうとすれば、案の定と言うべきか、バルテ伯爵が「お待ちください!」と声を張り上げた。
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