英雄閣下の素知らぬ溺愛
アルベール様を悪く言うのは、駄目だわ。
男性を恐れる、明らかに足手纏いでしかない自分を受け入れてくれる、優しい人を。何よりも自分を優先してくれる、強い人を。
この国を守ってくれた英雄を、悪く言うなんて。
それはさすがに、許容出来るはずもなくて。
「店の者が、本当に申し訳ございません。カルリエ様。少々こちらでお待ちください。……あのような低俗な考えを持つ者がいるなど、我がブティックの恥。すぐに追い出して参りますから」
店主が苛立ったように息を巻くのを聞きながら、しかし首を横に振る。
自分だけならばまだしも、アルベールを悪く言うのは絶対に聞き捨てならない。「私が直接お話ししますわ」と、笑みを浮かべて言ったときだった。
「残念だわ」という、可憐な声が聞こえて来たのは。
「ここのマダムの作るドレスが好きだから、このブティックを贔屓にしていたのに。店員が客に聞こえる場所で、そんな話をする程度の店だったなんて」
穏やかで柔らかな、鋭い声。先程まで笑い合っていた店員たちが、「ひっ」と小さく声を上げるのが聞こえた。
同時に、その声の主に気付いたのだろう店主が、慌てて扉を開いて廊下へと出て行く。カミーユもまた、それに続いた。
「申し訳ありません、エモニエ様……! この者たちは店を追い出すつもりですので……!」
「……あら、マダム。そちらにいらしたのね」
廊下に出た途端、店主が深々と頭を下げた相手に目を遣って、カミーユは息を呑んだ。日の光に透けるような金色の髪と、湖面のような翠色の瞳。今にも空気に溶けそうな、あまりに儚い美貌に。
エモニエ様、ということは……、トルイユ侯爵家のご令嬢じゃないかしら。
社交界にあまり顔を出さないカミーユでも聞いたことがある。フランシーヌ・エモニエ。カミーユの一つ年上の、儚げな美しさで有名な、社交界の華。穏やかで優しい人格者として有名な人物であった。
カミーユの記憶が確かならば、彼女はアルベールの母方の従妹に当たるはずだ。ベルクール公爵夫人の妹が、現在のトルイユ侯爵夫人だから。
フランシーヌはこちらに視線を向けると、驚いたようにその大きな目を見開いた。
男性を恐れる、明らかに足手纏いでしかない自分を受け入れてくれる、優しい人を。何よりも自分を優先してくれる、強い人を。
この国を守ってくれた英雄を、悪く言うなんて。
それはさすがに、許容出来るはずもなくて。
「店の者が、本当に申し訳ございません。カルリエ様。少々こちらでお待ちください。……あのような低俗な考えを持つ者がいるなど、我がブティックの恥。すぐに追い出して参りますから」
店主が苛立ったように息を巻くのを聞きながら、しかし首を横に振る。
自分だけならばまだしも、アルベールを悪く言うのは絶対に聞き捨てならない。「私が直接お話ししますわ」と、笑みを浮かべて言ったときだった。
「残念だわ」という、可憐な声が聞こえて来たのは。
「ここのマダムの作るドレスが好きだから、このブティックを贔屓にしていたのに。店員が客に聞こえる場所で、そんな話をする程度の店だったなんて」
穏やかで柔らかな、鋭い声。先程まで笑い合っていた店員たちが、「ひっ」と小さく声を上げるのが聞こえた。
同時に、その声の主に気付いたのだろう店主が、慌てて扉を開いて廊下へと出て行く。カミーユもまた、それに続いた。
「申し訳ありません、エモニエ様……! この者たちは店を追い出すつもりですので……!」
「……あら、マダム。そちらにいらしたのね」
廊下に出た途端、店主が深々と頭を下げた相手に目を遣って、カミーユは息を呑んだ。日の光に透けるような金色の髪と、湖面のような翠色の瞳。今にも空気に溶けそうな、あまりに儚い美貌に。
エモニエ様、ということは……、トルイユ侯爵家のご令嬢じゃないかしら。
社交界にあまり顔を出さないカミーユでも聞いたことがある。フランシーヌ・エモニエ。カミーユの一つ年上の、儚げな美しさで有名な、社交界の華。穏やかで優しい人格者として有名な人物であった。
カミーユの記憶が確かならば、彼女はアルベールの母方の従妹に当たるはずだ。ベルクール公爵夫人の妹が、現在のトルイユ侯爵夫人だから。
フランシーヌはこちらに視線を向けると、驚いたようにその大きな目を見開いた。