ところで、政略結婚のお相手の釣書が、私のこと嫌いなはずの『元』護衛騎士としか思えないのですが?
会話が減っていくのですが
「本日もご苦労様でした」
「は……」
アルベールと私は、アルベールからの『は』の返答一文字だけで意思疎通を図ってきた。
今日も変わることのない、そんな一日だった。
昨日も今日も、たぶん明日もそうに違いない。
「あの、アルベール」
「は……?」
「…………なんでもない」
「え?」
ん? 一瞬、『は』以外の音が聞こえた気がしたわ。まあ、どちらにしても、一文字だから、誤差範囲だろうけれど。
しかし、それが翌日起こるアルベールの異変の前触れだったことを、私はまだ知らない。
「おやすみなさい」
「は」
軽く会釈をするアルベールを残して、扉を閉める。
……出会った時は、こんなじゃなかった。
私たちのファーストコンタクト、私は覚えているけれど、アルベールはきっと、覚えていないんだろうな。
『あの、もう少し飲みますか?』
そう、はじまりは、そんな会話だった。