ところで、政略結婚のお相手の釣書が、私のこと嫌いなはずの『元』護衛騎士としか思えないのですが?
そして翌日……。
早朝の薔薇の世話のため庭に出ると、アルベールが剣を振って自主訓練していた。
「精が出るのね。えらいわ」
「はっ? え……。恐れ入ります」
それが、2日目の会話だ。
至って普通の騎士と令嬢の距離感と言えるのではないだろうか? そうだよね?
そして3日目。
「おはよう、リヒター卿」
「……アルベールと」
「うん? そうね、年もそれほど違わないし。アルベール、今日もがんばってね?」
「っ……?!」
なぜか、アルベールが胸を押さえた気がした。
去っていく私の後ろで、「俺は一体何を言った……?」というつぶやきが聞こえた。
そしてその日の夕方、彼は変わってしまった。
「おつかれ様。活躍は、耳にしているわ。セイグルに認められるなんて、アルベールは、すごいのね」
「は…………」
「……? えっと、おやすみなさい」
「は」
そのまま、恭しくお辞儀をしてきたアルベール。
あの時からだ、彼が私の前では『は』か『は?』しか発さなくなったのは。
「えっと……。そこまで気に触ることしたかしら?」
首を傾げながら、ベッドの掛け布団をめくって、その中に入り込む。
「上から目線で褒めたのがいけなかった?」
その日は、なかなか寝付くことができなくて、寝返りばかり打っているうちに、朝が来てしまった。