ところで、政略結婚のお相手の釣書が、私のこと嫌いなはずの『元』護衛騎士としか思えないのですが?
北極星の魔女と騎士に挟まれた私
***
あの日のことは、たぶん私が見た、都合の良い夢だったのね……。
私は、あの日の可愛すぎたアルベールについて、そう結論づけていた。
だって、あの日から、さらにアルベールの氷点下の瞳には磨きがかかり、必要時には私に「お嬢様」と呼びかけていたことなんて、なかったかのように、本当に「は」「は?」しか、言わなくなってしまったから。
「ねえ、セイグル……」
「どうなさいましたか、お嬢様」
「……アルベールに、どうしてこんなにも嫌われてしまったのだと思う? 覚えがないのよ、困ったことに」
「……お嬢様」
いつも慈愛に包まれたかのような印象を与える執事セイグルの瞳が、スッと細められた。
「セイグル?」
「……私の口からは何も。ただ、見たり聞いたりしたことだけが、この世の全てではないとだけお伝えしましょうか」
「……え?」
それだけ言うと、セイグルは席を立ち、香り高い紅茶を淹れてくれた。
よい香りの紅茶。
「相手にどう思われているか、それよりもお嬢様がどう思われるかではないのでしょうか」
「……ありがとう、セイグル」
「いいえ、差し出がましいことを申しました」
少し難しいセイグルの言葉。
でも、どんなに冷たくされても、なぜかアルベールのことを嫌いになんてなれない私。