ところで、政略結婚のお相手の釣書が、私のこと嫌いなはずの『元』護衛騎士としか思えないのですが?

「えっと、お断りのお返事を」
「不可能です。国王陛下直筆のサインがある以上、指定の日時に王城へ行かなければ、コースター辺境伯領に叛意があるとみなされます」
「――――わかったわ」

 指定の日時まで、それほど猶予はない。移動時間を考えれば、今日にでも出発する必要がある。

 ――――こんな、ギリギリの日程。これすらも、嫌がらせに思えてきたわ?

 ため息を一つつくと、辺境伯令嬢として最低限必要な役目のために残しておいたドレスを準備して、王都へ向かうのだった。

 ***

 長い旅路の末、たどり着いた、煌びやかな王城。
 王城に入るまで、たくさんの人たちに出迎えられて、信じられないほどの歓迎ムードだ。
 動揺を隠して優雅にほほ笑みながら、正門を守っていた騎士から案内を受けて、王城を進んでいく。

 ――――いくらなんでも、婚約くらいで仰々しくない?

 そんなことを思いながら、指定された応接室に向かっていると、見知った姿かたちの騎士が、こちらに向かって駆けてきた。

「――――ミラベル!」

 ――――えっ、初めて名前呼ばれた?!

「っ、リヒター卿……。この度は」
「会いたかった」
「えっ?!」
「……相変わらず、美しいな。あなたは」

 そのまま抱きしめられる。
 あまりのことに、私の体は凍り付いたように動かなくなった。

 ――――あなた誰ですか?!

 どう見ても、アルベール・リヒター本人の姿かたちをした麗しい騎士を前に、私はその言葉を辛うじて呑み込んだ。
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