ところで、政略結婚のお相手の釣書が、私のこと嫌いなはずの『元』護衛騎士としか思えないのですが?
嫌われ令嬢と言葉少なくない婚約者
戦いから戻ってきたセイグルは、変わらずに執事をしてくれていた。
北極星の魔女がいなくなった、辺境伯領は元の平和をゆっくりと取り戻しつつある。
それでも、三年もの間、北極星の魔女が暴れまわったせいで、領民たちは毎日の食料にも、衣服にも困っている。
コースター辺境伯家の、宝物庫は空になった。
私も、ドレスも宝飾品も、最低限だけを残して売ってしまった。
そんなわけで、現在の私の姿は、王都にいる平民の女の子と変わらないだろう。
それにピッタリなアクセサリーを、一つしか持っていない私は、今日も青いビジューのついた可愛らしい髪飾りをつけて鏡を見た。
「それにしても、セイグル」
「どうなさいましたか、お嬢様」
「ようやくコースター辺境伯領が平和になったから、婚約者を募集したのに、誰も来ないわね?」
「…………それはおそらく」
たしかに、疲弊した領土、空になった宝物庫。
貧しくなってしまった辺境伯家には、以前のような魅力はないかもしれない。
それでも、長い歴史を誇る辺境伯家の婿になりたいという人間なら、たくさんいるはずだった。
ほかにきょうだいのいない私と結婚すれば、少なくとも辺境伯という名前を手に入れることが出来る。
お金がある貴族たちから、婚約の打診が山のように訪れてもおかしくない状況のはずだ。