ところで、政略結婚のお相手の釣書が、私のこと嫌いなはずの『元』護衛騎士としか思えないのですが?
表に出てみれば、初夏の日差しを浴びて、庭園を埋め尽くすほどたくさんの薔薇が、美しく咲き誇っていた。
その中でも、私のお気に入りは、ローズピンクからクリームイエローのグラデーションが可愛らしい大輪の薔薇だ。
黒髪と黒い瞳、辺境伯領と国境の特徴である切れ長の瞳をした私は、妖艶な印象だと言われることが多い。でも、私は可愛いものが大好きなのだ。
「可愛らしい……」
庭師が手に入れてくれた隣国生まれの可愛らしい薔薇。
去年植えてもらってから、私は毎朝せっせとお世話をしていた。
「ようやく咲いた……。きれいな薔薇。やっぱり植えてもらって正解だったわ。――――少し可哀そうだけれど、一輪だけ分けて頂戴ね?」
この後、侍女に渡して、部屋に飾ってもらおう。
部屋に飾られた薔薇をイメージしてニコニコしながら、薔薇を手折ろうとすると、骨ばった大きな手が、それを阻んだ。
「アルベール?」
「…………」
何も言わないまま、薔薇を自らの手で一輪手折ったアルベールは、おもむろに棘を取り除き始めた。
そして、完全に棘が取り除かれた薔薇が私に差し出される。
初夏の澄んだ空気が見せる幻だろうか。
柔らかい光の中、ほほ笑んでいるようにも見えるアルベール。
私は、うれしくなってしまい、その薔薇を受け取ると、アルベールにお礼の言葉を告げた。
「ありがとうございます。うれしい。アルベールは、気が利くのね!」
「…………は?」
再び氷点下の瞳が、私を射すくめた。決闘の対戦相手が泣いて詫びそうなくらい、その視線は鋭い。
……ほほ笑んだように見えたのは、おそらく初夏の光の加減によるものだったのね。
そう私は、結論付けたのだった。