ところで、政略結婚のお相手の釣書が、私のこと嫌いなはずの『元』護衛騎士としか思えないのですが?
アルベールは、リヒター子爵家出身。
魔力の強いリヒター子爵家は、代々騎士を輩出している。
白い騎士服は、陽光のせいでますます白く、紺色の辺境伯騎士団を表すマントが爽やかな風に揺れる。
こうして立っていると、これほどカッコいい騎士なんて、王都にもいないと思えてくるよね……。
「いいお天気ね? アルベール」
「…………は」
庭園に造られた薔薇のアーチと、テーブルに椅子。
私のお気に入り、のんびりスペースだ。
空はどこまでも青く、同じ色をしたアルベールの瞳は……。どこまでも氷点下だ。
心なしか、周囲の温度が下がったような気がして、私はフルリと震える。
風が吹いてきて、空が急に暗くなった。
てっきり、アルベールの視線があまりに冷たいものだから、体感温度が下がったのかな? と思ったけれど、実際に温度が下がって来たらしい。
「戻りましょうか?」
「……は」
立ち上がると、あっという間に晴天は黒い雲に覆われて、大粒の雨が降り始める。
濡れてしまうな、と思ったとたんに、ばさりと私の頭に何かがかぶせられた。
それは、アルベールのマントだった。
…………どうしよう。なんでこんなに、いい香りがするの?!
違う違う。そうじゃない。マントがなかったら、アルベールがびしょぬれになって……。
それなのに、アルベールは、いきなり私の手を掴むと足早に歩き始めた。
「アルベールが濡れてしまうわ!」
「…………は?」
さっきより温度が下がった気がしたのは、その声音があまりにも冷たかったせいに違いない。
私は、少しだけ震えながら、小走りでアルベールに手を引かれて走った。
こういう時に、庭が無駄に広いというのは問題だ。
アルベールが、玄関の扉を開ける。
玄関に入ったとたん、たくさんの辺境伯家の従業員たちに取り囲まれて、そのままお風呂に連れていかれた。アルベールは、びしょ濡れのまま、私が出てくるまで黙って待っていた。
「え? アルベール、びしょ濡れで何しているの?!」
「…………は」
「さ、さっさと着替えてきて!」
「…………は?」
さっさと着替えてきて欲しくて、アルベールの背中を押す。
アルベールがなぜか抵抗する。