遠き記憶を染める色
⑱繋がった二人が戻った家
繋がった二人が戻った家
”ブブブー…、ジャリジャリジャリ…、キューッ…”
海水に抱かれ、服を濡らしたままの二人を乗せた車が潮田家の敷地内に入った。
「…じゃあ、この続きはあとで二人になった時にね」
「うん、わかった」
ちょうど潮田本家の母屋と流子が住む分家の中間に停車すると、運転席のサダトは助手席の流子にぼそりと告げた。
彼女も彼を察して早口でそう答えると、二人は車から降りた。
***
「流子ちゃん、荷物ひとつ持つよ」
「へへ、サンキュ…」
”着いた…!…さあ、みんなは私たちの服濡れてんの気づいたら、なんて言うかな…”
とは言え、流子には概ね予想はついたが…。
***
サダトの車が到着して最初に庭へ出てきたのは、流子の父方の祖母、枝津子だった。
どうやら玄関に座って帰りを待っていたようで、85歳の枝津子は杖を突いて、しわくちゃな笑顔で二人を出迎えた。
「おばあちゃん、ただいまー!」
「おお、おお…、流子、待ってたよ。お帰りねえ…」
続いて流子の家からは、母親の絹子と親類の海子が出てきた…。
「おばさん、遅くなってすいません。海寄って、勢いで二人して泳いできちゃいました。思わず服着たまま…」
「えー?ハハハ…、二人ともびしょびしょじゃない。…サダトちゃん、悪かったねー。さしずめ、せっかちなこの子が無理言ったんでしょうけどねえ」
流子とサダトは顔を見あわせてケラケラ笑ってる。
”サダト兄ちゃんが気を回してくれちゃったか…”
ともあれ、二人の服がびっしょりなのはこれでクリアとなった。
***
「何と言ってもさ、二人は大岬の海が大好きだもんね。でも、元気に帰って来てくれてよかったじゃない、お義姉さん」
「そうねえ…」
海子がそう合いの手を入れると、娘とテレビに出てる芸能人とのツーショットを眼前に絹子は、何とも言えず嬉しそうな表情を浮かべていた。
いや…、枝津子も海子もだった。
何しろこの場にいない潮田家全員、現役アイドルとして活躍する甲田サダトがこの大岬に凱旋し、流子と再会する光景を心待ちにしていたのだから…。
そして、4年ぶりに流子とサダトが並んだ姿を目にして、絹子と海子は共に”この二人はお似合いね…”と感じていた。
***
「さあさ、二人とも中入ってお湯浴びてなぁ、着替えておいで。今日はサダ坊が東京にもどるってから、みんなで早めに昼をとろうってことになっとるから。時期、磯彦と洋介も帰ってくるよ」
「…今ね、海子さんと揚げ物の準備してたのよ。今日はウチの居間でみんな一緒にってことだから」
枝津子の言を受け、絹子が補足すると、流子とサダトは目で会釈を交わし、”それぞれの家”に向かった。
「じゃあ、おばあちゃん、30分したらサダちゃんと一緒に来てくださいね」
「あいよ…。じゃあ、サダ坊、風呂すぐ入れるから。行こうかね」
流子には、言葉に言い表せない何ともな珠玉のひと時であっただろう。
だが、その思いに浸っていたのは彼女だけではなかった。
サダトも同様の思いだったし、潮田家の皆も、できればこうやってずっと続いてくれればと願っていたはずだ。
”ブブブー…、ジャリジャリジャリ…、キューッ…”
海水に抱かれ、服を濡らしたままの二人を乗せた車が潮田家の敷地内に入った。
「…じゃあ、この続きはあとで二人になった時にね」
「うん、わかった」
ちょうど潮田本家の母屋と流子が住む分家の中間に停車すると、運転席のサダトは助手席の流子にぼそりと告げた。
彼女も彼を察して早口でそう答えると、二人は車から降りた。
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「流子ちゃん、荷物ひとつ持つよ」
「へへ、サンキュ…」
”着いた…!…さあ、みんなは私たちの服濡れてんの気づいたら、なんて言うかな…”
とは言え、流子には概ね予想はついたが…。
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サダトの車が到着して最初に庭へ出てきたのは、流子の父方の祖母、枝津子だった。
どうやら玄関に座って帰りを待っていたようで、85歳の枝津子は杖を突いて、しわくちゃな笑顔で二人を出迎えた。
「おばあちゃん、ただいまー!」
「おお、おお…、流子、待ってたよ。お帰りねえ…」
続いて流子の家からは、母親の絹子と親類の海子が出てきた…。
「おばさん、遅くなってすいません。海寄って、勢いで二人して泳いできちゃいました。思わず服着たまま…」
「えー?ハハハ…、二人ともびしょびしょじゃない。…サダトちゃん、悪かったねー。さしずめ、せっかちなこの子が無理言ったんでしょうけどねえ」
流子とサダトは顔を見あわせてケラケラ笑ってる。
”サダト兄ちゃんが気を回してくれちゃったか…”
ともあれ、二人の服がびっしょりなのはこれでクリアとなった。
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「何と言ってもさ、二人は大岬の海が大好きだもんね。でも、元気に帰って来てくれてよかったじゃない、お義姉さん」
「そうねえ…」
海子がそう合いの手を入れると、娘とテレビに出てる芸能人とのツーショットを眼前に絹子は、何とも言えず嬉しそうな表情を浮かべていた。
いや…、枝津子も海子もだった。
何しろこの場にいない潮田家全員、現役アイドルとして活躍する甲田サダトがこの大岬に凱旋し、流子と再会する光景を心待ちにしていたのだから…。
そして、4年ぶりに流子とサダトが並んだ姿を目にして、絹子と海子は共に”この二人はお似合いね…”と感じていた。
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「さあさ、二人とも中入ってお湯浴びてなぁ、着替えておいで。今日はサダ坊が東京にもどるってから、みんなで早めに昼をとろうってことになっとるから。時期、磯彦と洋介も帰ってくるよ」
「…今ね、海子さんと揚げ物の準備してたのよ。今日はウチの居間でみんな一緒にってことだから」
枝津子の言を受け、絹子が補足すると、流子とサダトは目で会釈を交わし、”それぞれの家”に向かった。
「じゃあ、おばあちゃん、30分したらサダちゃんと一緒に来てくださいね」
「あいよ…。じゃあ、サダ坊、風呂すぐ入れるから。行こうかね」
流子には、言葉に言い表せない何ともな珠玉のひと時であっただろう。
だが、その思いに浸っていたのは彼女だけではなかった。
サダトも同様の思いだったし、潮田家の皆も、できればこうやってずっと続いてくれればと願っていたはずだ。