遠き記憶を染める色

㉒溶けあう心、照らし重なるカラダ

溶けあう心、重ならないカラダ



流子はサダトから受け取った、コンパクトなビニールケースに収まっているキーをじっと見下ろしていた。


「貸金庫には、潮田流子あての封筒がある。中身はUSBメモリーだよ。…入れてあるデータはまあ、手紙みたいなものさ」


サダトは微笑を浮かべ、さらっと言ったが…。
当然、流子にはなぜ手渡しではないのか…、それが引っかかった。


でも、どういった聞き方をすればいいか戸惑ってしまい、すぐに言葉が出なかったのだ。
そんな彼女を推し量ったように、サダトが笑顔のままで”説明”した。


***


「…要はキミには知っててもらいたいこと、見てもらいたいものなんだけど…。データは一度に入れたものじゃなくて、日記の写しとか、2年くらい前から直近まで…。で…、貸金庫に保管したのは、この前大岬で流子ちゃんに会った後だよ」


「!!!」


サダトのこの言葉に、流子は複数の意味で衝撃を受けずにはいられなかった。


”概ね2年間って…、あの女優と付き合いだしてからこれまでってことでしょ。その間の日記なら、メールや電話で伝わらなかったお兄ちゃんのその時の気持ちや、本当のコトがリアルに記されてるはずだ。それをデータに収めて、私に渡そうと…。で、手渡しではなく、貸金庫に入れたのは今月私と会って、ああいうことになって…、その後なんだよ!これって…”


「…流子ちゃんが東京へ来るのわかってたから、ここでメモリーを受け取ってもらうことも考えたけど…。少なくとも、心の準備をしてもらった上で目にしてもらいたいものだと思ったんでさ…」


「わかったわ。今の補足、よくかみ砕いて、時期をみて受け取ります」


大げさに言えば、彼女としてはなまじりを決した思いであった。
彼女的にはサダトが自分に、その思いを単純に伝えるではなく託すという重みを感じ取ったのだ。


***


「はは…、なんかホッとした気分だよ。ずっと心の中に閉じ込めてたものを解放できたような…。オレ、大岬の海で、何かを植付けられた気がするんだ。流子ちゃんだけはオレを理解してくれてるってわかったから…。いや、以前からそう思っていたかもな」


「サダト兄ちゃん…」


流子はたまらず、サダトに抱きついた。
そしてサダトはしっかりと受け止め、彼女を抱き寄せた。


二人は唇を重ね目を閉じると、互いに舌を絡らませながら、どこか貪りあうようだった。


「もうキミしかいない。他には無理なんだ…」


「私もよ‥。あなたを誰にも渡さない」


流子とサダトはベッドの上で、相手の体にしがみつくように抱きあい、互いに撫であい、体中を当て合った。


早くも二人の体は火照り、欲情が全開した。
サダトは流子のカラダに上からかぶさり、まるで全身を彼女に擦りつけるようで、どこか自分自身を預けている動作を感じさせた。


それは、海の流れに身を委ね、水に溶け込んでいく脳内飛行の如く…。
サダトの中では、もはや愛する流子は海の化身だったのか…。




< 22 / 40 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop