遠き記憶を染める色

㉔突然の一報

突然の一報




流子とサダトは、そのまま数分間くっついたままでいた。


「そろそろ離れないとホントにくっついちゃうかな(苦笑)」


「それでもいいよ、私。ずっと一緒だってことだもん(笑)」


結局二人は、横になって正面から抱き合ったままから、仰向けで横に並んだ。
無論、べったり体をくっつけて…。


「できんだよね、サダト兄ちゃん?私とはさ…」


「あっ、ああ…。ふう‥、でも何か、自分へのテストみたいだったかな…」


この時のサダトは、苦笑と照れ笑いがまじっていた。

それは何より、安心感からもたれせるものであった…。
”そこ”が間違いないのは、サダトも否定しようがなかったが、それでもどこか自分を理解してくれている流子に対してのある種、義務を果たしたというところにとどまる…、最低限の安堵だったという漠な感傷も宿していたのだ。


***


その日の夕方、二人は幹線道路沿いのファミレスで早めの夕食を取った後、そのままサダトの運転で最寄り駅に向かった。
この時点では、すでに雨はすっかり上がっていた…。


「…今日は遠いところ、ありがとう。帰り、気をつけてね」


「うん。…このカギ、結構早く使うかも。いい?」


「いいよ。任せる」


流子は一応、”確認”した。
結構迷ったが、やはり…。


この時、サダトは屈託のない笑顔を浮かべてさらりと答えたが、彼女が確認してきた意味は察していた。
そして‥。


”流子ちゃん、さようなら…”


駅の改札から満面の笑みで手を振る流子に、サダトは手を振り返し、”二つ”の別れを心で告げた。



***



耳を疑うような衝撃の一報が流子の元に届いたのは、それから10日後のことだった。
夕方、学校から家に戻った流子が玄関で靴を脱いでいると、父親の洋介が奥からどたどたと駆け寄って、背中越しに告げたのである。
衝撃極まるその一声を…。



”嘘でしょ…⁉サダト兄ちゃんが死んだなんて…‼”


「…本家の兄さんとこには、埼玉の甲田家からすぐに連絡が入ったんだ。今さっき、もうテレビでも報道を始めてる!…流子、どうやら、サダ坊…本当らしいんだ。いいか、しっかりな…‼」


洋介の後ろでは、妻の絹子がハンカチで目頭を押さえ、娘の胸中を案じていた…。


***


”…先ほど、警察からの発表がありました。本日午前11時過ぎ、東京湾沖に漂流していて漁船に発見された男性と思われる死体は、人気アイドルグループ、レッツロールのメンバー、甲田サダトさん、23歳と断定された模様です…”


「!!!」


”発見時、甲田さんは、下半身だけ衣服が着用されておらず…、ええ‥、あの…”


”現場の○○さん、どうされましたか?甲田さん、ズボンを履いていなかったってことですか⁉”


”はい…、甲田さんはズボンと下着を着用していない状態で発見されたということですが、その後、鑑識の調べで、…ええ?…あ、はい、ええと、スタジオの△△さん…、聞こえますか?”


”聞こえてますよ、現場の間○○さん!どうぞ、警察の今現在の見解を伝えてもらえますか!」


”はい…、ええと、甲田さんの遺体はですね…、先ほどの警察の発表では、あの…、下半身局部が切断されていたということなんです…”


”えー!!!…あの、じゃあ…、現場の○○さん、甲田さんは何者かに殺害された可能性もあるということですか⁉”


”いえ…、警察ではまだ自殺を含めた事故死、他殺の断定には言及しておらず、遺書が残されたかどうかも含め、甲田さんの遺体の状況から慎重な捜査を進める方針のようです…”


流子の両親は、大画像テレビを度アップで独占中の女性レポーターによって伝えられたその一報に、完全フリーズ状態となった娘の姿は、とても正視に堪えるものではなかった。
そして…。


”バタン…”


「流子ーー‼」


「流子!大丈夫か‼」


流子は床に倒れ、気を失った…。



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