遠き記憶を染める色

㉛少女は真っ赤な夢を見た

少女は真っ赤な夢を見た



ほのかな憧憬と淡い胸のときめき…。
宝物だった穢れなき遠き記憶が、裏切りの刃をかざした時…。
少女は裸の海に抱かれ、真っ赤な夢を見た。


***


”ザーッ…!”


「流子ちゃーん!入っておいでー」


「はーい!今行くよー」

先にシャワーを浴びていたサダトからゴーがかかり、流子は居間から浴室へとすっ飛んでいった。


”ガシャ…”


「サダト兄ちゃん…、私は全部受け止めるから…。遠慮なしでいい…」


「ありがとう。じゃあ、服はそのままで、一緒にシャワーを浴びよう…」


「私だけ、服のまんま…、なの?」


「そう…」


彼女はやや戸惑いながらも、半そでのポロシャツと白いミニスカート姿のまま浴室に入り、シャワーを浴びているサダトの後ろに立った。


***


”ジャー…”


「うわっ…」


「ハハハ…、熱くないかい、お湯?」


「うん、ちょうどいい。でも、服の上からお湯ってのもなんかヘン…」


流子は困惑したような顔でそう口にしたが、どこか体の芯がトロンとしたような変に気持ちがいい感じもあった。


彼女はいたずらっぽい口っぷりで、その口元はちょっといやらしくほころんでいた。
だが、彼の方はどこか思いつめたような神妙な顔つきだ。


「キミに感じてるんだ。普通の女の子が服のまま一緒に濡れてくれてる。もっと、一緒に浴びよう…」


”ジャー…”


「ああっ…」


思わず流子は呻いてしまった…。


「このまま…、ここで溶けあいたい。抱き合おう、溶けるまで。この水と一体になって…」


そして彼は心の奥で欲した。


”この子の肉体で溶けたい…”


彼のオーダーは流子を戸惑わせた一方、彼女には、どこかすんなり”入れる”何かが自分の中にもふつふつを湧き上がる感覚も伴っていた…。


***


サダトは左手で手にしたシャワーを自分と流子の全身へ塗り込むように吹きかけ、一方の右手では流子の左手を優しく握っていた。
その目をじっと閉じ、真上の向いて…。


「サダト兄ちゃん…、私で大丈夫?」


流子の問いかけは、やや不安げではあった。
だが、彼を理解しているのは自分だけ…。
そんな自負心は揺らいでいなかった。


そして‥、サダトにはその”すべて”が伝わっているようであたのだ。


「キミしかいない…。今夜…、”最後まで”いいかい?」


「いいよ。私は最後まであなたと一緒よ!」


流子はやや目を潤ませ、訴えるように宣言した。


「じゃあ、湯船に入ろう」


サダトはシャワーを止め、彼女の手を引いて、二人で浴槽をまたいだ。
右手の中は、たった今まで握られていたシャワーの取っ手から果物ナイフにチェンジして、湯気のたて込める深夜の浴室に鋭意な光りを放っていた…。


***


サダトは一旦、ナイフを浴槽の脇に置くと、流子を衣服ごと優しく抱き寄せた。
下半身はたがいに胡坐をかくような姿勢で、ぴったりと重なっている。


「なんか、水の中とも違う感じがするよ。私達のカラダを濡らしてるものって…」


「そうさ。水もお湯も生きてるんだ。オレも反応するし、水やお湯だって相反応する。オレはもう溶けてゆくんだ。還るんだ…」


「でも、私とは別れなんてないんだよね!」


流子は思わず念押しした。
それを受けたサダトはゆっくりと、でもしっかりと頷いた。


***


「うん…、ずっと一緒さ。だって、流子ちゃんのカラダにも溶けていくんだもん、オレ、全部が…。心はもう大岬の海で溶けあってるし…。さあ、オレの証をこのお湯の中に…」


「ええ。私も一緒によ」


「うん一緒だ。流子ちゃんも…」


二人は浴槽の中で抱き合い、キスして、互いのカラダをお湯という暖かい水を介して愛を確かめ合っていた。


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