遠き記憶を染める色
㉝少女が願った手に入れたいもの
少女が願った手に入れたいもの
「…いやあ、甲田さん…、さっそく送っていただいて…。きょう確かに受け取りましたので。…ええ、流子には先ほど見せました。とにかく、サダト君には小っちゃい時分からから懐いておりまして…。はあ、さすがにショックが強いようで、まだ学校は休んでまして…」
「潮田さん…、サダトが先日そちらへ伺った際はほんとうに暖かく迎えてくれて感謝しています。あの子…、電話かけてきて、本当に喜んでいました。流子ちゃんとは互いの気持ちを確かめ合ってきたと…。今度は東京のマンションに来てくれるんだと…、とてもうれしそうに言ってました。なのに…、自分で命を絶つような罰当たりなことを…。本家のみなさんにもご迷惑おかけして、先ほど電話させていただきましたので…」
***
サダトの突然の死…。
流子の受けたショックは、まさに言語に絶するものがあっただろう。
”その日”は病院で点滴を受けた後、深夜には自宅へ戻ったが、食事は喉を通らず翌朝まで睡眠につくことができなかった。
結局、翌日は学校を休んだ。
しかし…。
その日、サダトの父親から流子の家に連絡が入り、家族に宛てた遺書らしき文書の中に、流子へ向けた文言も数行含まれていたことが伝えられた。
さっそく、文書は流子のパソコンにファイル送信され、彼女は昼過ぎに”彼からの言葉”を目にすることができたのだ。
”流子ちゃん、この決断に至った場合、貸金庫の中と二人の今まででどうかオレの気持ちを汲んでください。ありがとう。いずれまた一緒になろう”
サダトの残したこのメッセージで、流子は一気に自分のこれからを決することができたのだ。
それは、ほぼ瞬時で…。
***
流子はその晩、両親には、サダトと愛し合っていたこと、海での抱擁と彼の部屋で体の関係も持ったことのすべてを告白した。
その上で、彼から”託された”貸金庫の中に保管されているデータを、一緒に受け取りに行ってほしいと端的に告げたのだ。
無論、流子の父と母は驚きと動揺を隠せなかったが、サダトが自ら命を絶った遠因が9年前の大岬沖で潮に呑み込まれた、”あのほかでもない事件”にあったと知らされたこともあり、急遽、翌日に父の洋介が車で都内の当該銀行へ流子とともに赴くことになった。
この時点で、流子は既にパズルが完成したかのように、頭の中の整理がなされていた。
そして、TV報道を受けた世間の目はどこに向けられていて、世論がどう形成されていくか…。
この辺りも彼女にはほぼ確信をもって予測がついたのだ。
”私、落ち込んでる場合じゃない。甲田サダトの尊厳を守ってあげるのよ!この私が!そのことで私たち二人は完全につながる…。世間の人たちの心の中でも、彼と私が永遠に生き続けていけるのよ。その為には、貸金庫の中味を大至急手に入れて、それを以って、あの女を甲田サダトから抹殺してやる!”
***
翌日の夜、流子はデータを自宅に持ち帰って、そのすべてに目を通した。
彼女にとって、その”中身”はある意味、想定していたその通りのモノであった。
要は、サダトにとっての永島弓子との真実…、その”証拠”ということだったのだ。
そしてそれらは、サダトの流子への深い思いで包み込まれてもいた。
このことを感じ取った流子に、もはや迷いなど存在しなかった。
”まずは自分のやるべきことをやる…。私は彼と心だけでなく、体も溶け合ったんだもん。彼がこの世から去っても一緒、ううん…、一体なのよ、もう私たち二人は…。だから、そのことを甲田サダトのファンや世の中の人々に植え付けてやるわ。永島を葬るこの機会に…。ウフフ、せっかく連日TVで取り上げてくれてるんだから、これを利用しない手はないわよ…(薄笑)”
流子はサダトが自ら切断した”体の一部”が大岬沖で発見、回収された報道がなされたあと…、永島弓子がハワイから帰国した数日後、あらかじめ用意していた手記をマスコミに向けて公表する…。
「…いやあ、甲田さん…、さっそく送っていただいて…。きょう確かに受け取りましたので。…ええ、流子には先ほど見せました。とにかく、サダト君には小っちゃい時分からから懐いておりまして…。はあ、さすがにショックが強いようで、まだ学校は休んでまして…」
「潮田さん…、サダトが先日そちらへ伺った際はほんとうに暖かく迎えてくれて感謝しています。あの子…、電話かけてきて、本当に喜んでいました。流子ちゃんとは互いの気持ちを確かめ合ってきたと…。今度は東京のマンションに来てくれるんだと…、とてもうれしそうに言ってました。なのに…、自分で命を絶つような罰当たりなことを…。本家のみなさんにもご迷惑おかけして、先ほど電話させていただきましたので…」
***
サダトの突然の死…。
流子の受けたショックは、まさに言語に絶するものがあっただろう。
”その日”は病院で点滴を受けた後、深夜には自宅へ戻ったが、食事は喉を通らず翌朝まで睡眠につくことができなかった。
結局、翌日は学校を休んだ。
しかし…。
その日、サダトの父親から流子の家に連絡が入り、家族に宛てた遺書らしき文書の中に、流子へ向けた文言も数行含まれていたことが伝えられた。
さっそく、文書は流子のパソコンにファイル送信され、彼女は昼過ぎに”彼からの言葉”を目にすることができたのだ。
”流子ちゃん、この決断に至った場合、貸金庫の中と二人の今まででどうかオレの気持ちを汲んでください。ありがとう。いずれまた一緒になろう”
サダトの残したこのメッセージで、流子は一気に自分のこれからを決することができたのだ。
それは、ほぼ瞬時で…。
***
流子はその晩、両親には、サダトと愛し合っていたこと、海での抱擁と彼の部屋で体の関係も持ったことのすべてを告白した。
その上で、彼から”託された”貸金庫の中に保管されているデータを、一緒に受け取りに行ってほしいと端的に告げたのだ。
無論、流子の父と母は驚きと動揺を隠せなかったが、サダトが自ら命を絶った遠因が9年前の大岬沖で潮に呑み込まれた、”あのほかでもない事件”にあったと知らされたこともあり、急遽、翌日に父の洋介が車で都内の当該銀行へ流子とともに赴くことになった。
この時点で、流子は既にパズルが完成したかのように、頭の中の整理がなされていた。
そして、TV報道を受けた世間の目はどこに向けられていて、世論がどう形成されていくか…。
この辺りも彼女にはほぼ確信をもって予測がついたのだ。
”私、落ち込んでる場合じゃない。甲田サダトの尊厳を守ってあげるのよ!この私が!そのことで私たち二人は完全につながる…。世間の人たちの心の中でも、彼と私が永遠に生き続けていけるのよ。その為には、貸金庫の中味を大至急手に入れて、それを以って、あの女を甲田サダトから抹殺してやる!”
***
翌日の夜、流子はデータを自宅に持ち帰って、そのすべてに目を通した。
彼女にとって、その”中身”はある意味、想定していたその通りのモノであった。
要は、サダトにとっての永島弓子との真実…、その”証拠”ということだったのだ。
そしてそれらは、サダトの流子への深い思いで包み込まれてもいた。
このことを感じ取った流子に、もはや迷いなど存在しなかった。
”まずは自分のやるべきことをやる…。私は彼と心だけでなく、体も溶け合ったんだもん。彼がこの世から去っても一緒、ううん…、一体なのよ、もう私たち二人は…。だから、そのことを甲田サダトのファンや世の中の人々に植え付けてやるわ。永島を葬るこの機会に…。ウフフ、せっかく連日TVで取り上げてくれてるんだから、これを利用しない手はないわよ…(薄笑)”
流子はサダトが自ら切断した”体の一部”が大岬沖で発見、回収された報道がなされたあと…、永島弓子がハワイから帰国した数日後、あらかじめ用意していた手記をマスコミに向けて公表する…。