遠き記憶を染める色

㉞望むカタチ

望むカタチ

  

潮田流子の一種サプライズなアクションには、TVをはじめマスコミは明快そのものの反応を示した。
それは見事なほど、一様に…。
その結果もまさに明快如実のものとなったのだ。


今の世、世論とは誠に移ろいやすく、風に吹く方向には極めて従順であると…。


***


流子の手記がテレビのワイドショーで大きく報道されると、翌日にはダイレクトな世論と世間の目がものの見事に形成されたのだ。
そしてそれは、流子の”望むカタチ”にピタリと合致するものであった…。


「…では、取材にあたった○○さんー!永島さんは今回、甲田さんが日記等で記していたとされる、お二人が結婚前提の交際を公にした1か月後にはすでに破局していたということを、事実として認めたということなんですね?」


『はい。その主だった原因が、すでに報道されてる甲田さんの持つ”特異な性癖”であったことを否定しない旨も、昨夜、自らのブログで表明しているんです…』


「ということはですよ、○○さん…。先週、永島さんが日本に帰国した際、マスコミに指摘されていた件についてノーコメントを貫いていましたが、結局、甲田さんとは幼いころから親しかったという、千葉在住の…、ええと…、実名でよろしかったですかね?」


ーここでメインコメンテーターは、スタジオ内の女性レポーターに確認し、彼女は小声で”はい”と頷いたー


「…ええ、今回、甲田さんの日記の写しも添えた手記がマスコミを通じて公開された現在高校生の女性は、実名を明かしてよろしいとのことですので、ええと、潮田流子さん…、ということで以後お伝えいたしますが…、その潮田さんが、亡くなられる直前の甲田さんから託されたという、日記などのいわば証拠を突き付けられて、永島さんは事実を認めざるを得なくなったと言えませんか?」


『はい、その通りだと思うんです。ただ、その際、永島さんは甲田さんの所属する事務所側も双方のイメージダウンを危惧して、しばらくは交際が進んでいるということで通すことに同意していたと…。昨日のブログではこのことも発信していました。ところが、今朝、潮田さんからマスコミ各社へ再びコメントが寄せられまして…。破局の原因が例の性癖であったということは、甲田さんは事務所側に伏せていたらしいということなんです』


***


「ちょっと待ってください、○○さん…!そうなると、甲田さんのお持ちになっていたご自身のその性癖の件って、ひょっとすると所属事務所は知らなかったんじゃないんですか?」


『…どうもそのようなんです。流子さんの手記によりますと、甲田さんはその特異な性癖を事務所側に告げれば、レッツロールとしての立場や今後の芸能活動が危ぶまれるという思いがあっての判断ではなかったかと…。潮田さんは、当時リアルタイムでメールや電話でやり取りをしていた内容も思い起こした結果、そう推測されているということなんです』


「いやー、潮田さんは甲田さんが亡くなる数週間前に、甲田さんの遠縁にあたる潮田さんの親戚の家を訪れた際、4年ぶりに会っているんですよね…。ある意味、甲田さんのことを誰よりも知り得ている方だと言えるんじゃないんですか…?」


『ええ…、実は今日、潮田さんから寄せれた第二報の中で、甲田さんのそういった性癖を生んだ原因とささやかれている、8年前に大岬沖でおぼれかけるという事故が起こった際、実は、その漁船は潮田さん自身も同乗していて、海から救出されたその一部始終に立ち会っていたという告白も含まれていたんです』


「えー?潮田さんがその場にいらしてたんですか!」


この間のテレビ各局の視聴率は同時間帯で軒並み、この年最高を記録していた…。



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