遠き記憶を染める色
㊱到達点
到達点
流子は世間の眼と論調を2つの側面で注視し、あくまでその両方をトータルに据えた上で”判断”していた。
まずは連日のテレビ各局によるワイドショー報道を受けた、ダイレクトな大衆の反応…。
これは、翌日のワイドショーで当該関連をどう取り上げるかで、かなり明瞭に把握できた。
ここでの反応は老若男女にわたる、いわば世の声のベースと捉えていい。
一方、ネット上のSNSを中心とした書き込みや投稿の発信も、今の世の世論形成としては無視できない場である。
主として若年層の感性による指摘や切り口は、時に大衆のオピニオンリーダーをそれこそ一夜にして生み得る。
時には、前日までの世論を真逆に変えてしまう…、そんなオセロ現象を誘導する爆発力をも秘めていると言っても過言ではない。
流子はこのことを十分に踏まえていたのだ。
***
具体的には、その日に流れたテレビのワイドショーを受けたネット上での”反応と声”を迅速かつ細かなチェックで拾い上げていた。
彼女の最も注目したコメントは以下の通りだった。
”甲田サダトが自ら切り取った局部が回収されたのは、彼が溺れかけた浦潮とかって南房総の大岬だろ?それって…”
”サダトにとって、浦潮は十代の時、海にイカされた定めの地だったんだ。彼の局部はその地に還ったんじゃないのか!”
”いや、正確には潮に戻されたんだ。オカルトだな、もはや…”
”サダトは海に去勢されたのよ!それで、水の中でしかイケなくなった。そのことを流子さんは理解していた。彼の深いところまで。その上で、愛を誓い合ったのよ!”
”まあ、都市伝説だな。でも、その彼女、苗字が潮田で下の名が流子って…”
”ある意味、あの二人…、現代の織姫と彦星、アダムとイブって言えないか?今時、未成年で実名晒してあそこまでって、いやーハンパねーよ”
”でも…、流子さんの気持ち…、結局どこなの?”
***
”決まってるわ!サダトを喰いものにした永島弓子へのリベンジよ。それ、見事功を奏してるわ”
”その子、水の中でサダトとヤッたんだろうな。この夏、大岬の海で。そのあと東京行って甲田サダトの部屋訪れたそうだが、そこで普通のセックスにチャレンジしたと思う。で…、ヤレたのかな?”
”私はデキたと思う!だから、二人は究極で結ばれたのよ!”
”でも、風呂でもヤッてたな。問題はそん時、サダトが刃物持ちこんでたかだわ”
***
ネット内でのリアクションは、意外な程”一方向”であった。
すなわち…、流子が実名を晒した潔さと勇気が、その他の方向に流れるすべての途をまずは塞いだと…。
これは流子の希望的観測がズバっと、ハマった結果と言えた。
そしてそれを導いたのは、彼女の機を捕らえる感覚が極めて鋭利であったということがあるのだろう。
その証拠に、もはや甲田サダトの常軌を逸した”自刃”報道は、はっきり二つの流れに分かれたのだから…。
ひとつは永島弓子のスキャンダル面(アイドル食いの過去をほじくる、生産性のないマスコミ18番のエグイあら探し含)、そしてもうひとつが現役アイドルだった故甲田サダトと、心と体を通じ合っていた16歳の女子高校生、潮田流子の更なる”告白”を待つ、”二人の真実”…。
彼女は、ここで確信した。
”今だわ!サダトさんと私の愛は4年前に確認し合ったことを世間に流す…!”、と…。
さらに…。
”うふふ‥。そうよ、私の名前は潮田流子なのよ。そして、カレはサダト…。狙い通りのところを突いてくれてるわ、ネットの若者は…。これならセカンドオピニオンが確立されるまで、もう少し時間があるってもんよ”
その日の深夜…、照明が消えた流子の部屋では、パソコンの画面がほくそ笑む流子の妖しい顔を醸しだしていた…。
流子は世間の眼と論調を2つの側面で注視し、あくまでその両方をトータルに据えた上で”判断”していた。
まずは連日のテレビ各局によるワイドショー報道を受けた、ダイレクトな大衆の反応…。
これは、翌日のワイドショーで当該関連をどう取り上げるかで、かなり明瞭に把握できた。
ここでの反応は老若男女にわたる、いわば世の声のベースと捉えていい。
一方、ネット上のSNSを中心とした書き込みや投稿の発信も、今の世の世論形成としては無視できない場である。
主として若年層の感性による指摘や切り口は、時に大衆のオピニオンリーダーをそれこそ一夜にして生み得る。
時には、前日までの世論を真逆に変えてしまう…、そんなオセロ現象を誘導する爆発力をも秘めていると言っても過言ではない。
流子はこのことを十分に踏まえていたのだ。
***
具体的には、その日に流れたテレビのワイドショーを受けたネット上での”反応と声”を迅速かつ細かなチェックで拾い上げていた。
彼女の最も注目したコメントは以下の通りだった。
”甲田サダトが自ら切り取った局部が回収されたのは、彼が溺れかけた浦潮とかって南房総の大岬だろ?それって…”
”サダトにとって、浦潮は十代の時、海にイカされた定めの地だったんだ。彼の局部はその地に還ったんじゃないのか!”
”いや、正確には潮に戻されたんだ。オカルトだな、もはや…”
”サダトは海に去勢されたのよ!それで、水の中でしかイケなくなった。そのことを流子さんは理解していた。彼の深いところまで。その上で、愛を誓い合ったのよ!”
”まあ、都市伝説だな。でも、その彼女、苗字が潮田で下の名が流子って…”
”ある意味、あの二人…、現代の織姫と彦星、アダムとイブって言えないか?今時、未成年で実名晒してあそこまでって、いやーハンパねーよ”
”でも…、流子さんの気持ち…、結局どこなの?”
***
”決まってるわ!サダトを喰いものにした永島弓子へのリベンジよ。それ、見事功を奏してるわ”
”その子、水の中でサダトとヤッたんだろうな。この夏、大岬の海で。そのあと東京行って甲田サダトの部屋訪れたそうだが、そこで普通のセックスにチャレンジしたと思う。で…、ヤレたのかな?”
”私はデキたと思う!だから、二人は究極で結ばれたのよ!”
”でも、風呂でもヤッてたな。問題はそん時、サダトが刃物持ちこんでたかだわ”
***
ネット内でのリアクションは、意外な程”一方向”であった。
すなわち…、流子が実名を晒した潔さと勇気が、その他の方向に流れるすべての途をまずは塞いだと…。
これは流子の希望的観測がズバっと、ハマった結果と言えた。
そしてそれを導いたのは、彼女の機を捕らえる感覚が極めて鋭利であったということがあるのだろう。
その証拠に、もはや甲田サダトの常軌を逸した”自刃”報道は、はっきり二つの流れに分かれたのだから…。
ひとつは永島弓子のスキャンダル面(アイドル食いの過去をほじくる、生産性のないマスコミ18番のエグイあら探し含)、そしてもうひとつが現役アイドルだった故甲田サダトと、心と体を通じ合っていた16歳の女子高校生、潮田流子の更なる”告白”を待つ、”二人の真実”…。
彼女は、ここで確信した。
”今だわ!サダトさんと私の愛は4年前に確認し合ったことを世間に流す…!”、と…。
さらに…。
”うふふ‥。そうよ、私の名前は潮田流子なのよ。そして、カレはサダト…。狙い通りのところを突いてくれてるわ、ネットの若者は…。これならセカンドオピニオンが確立されるまで、もう少し時間があるってもんよ”
その日の深夜…、照明が消えた流子の部屋では、パソコンの画面がほくそ笑む流子の妖しい顔を醸しだしていた…。