遠き記憶を染める色
⑧告白と純なる欲情
告白と純なる欲情
その年の夏が、サダトの大岬を訪れる最後になる…。
この時すでに、芸能界にデビューすることが決まっていたサダトは、今後、大岬に来て流子と会う機会はなかなか持てだろうないと判断し、浦潮に呑まれた時の約束を今回、果たすつもりだった。
2泊3日の行程で大岬に到着したその日、彼はあらかじめ流子と約束し、水泳部の部活が終わる時間に合わせ、磯浦の岩場で待っていた。
流子は午後4時15分きっかりに、自転車でやってきた。
「サダト兄ちゃーん!お帰りー!」
このあいさつは、ずっと以前から同じだった。
***
「ただいま、流子ちゃん!アハハ…、水泳始めたって聞いてたけど、体格よくなったなー」
「アハハ…、胸もだいぶ大っきくなってきたよ」
「そうみたいだね」
二人は岩場に並んで座り、屈託なく、いろんな話をした。
流子からすると、アイドルグループとしてデビューしたことが、何と言っても一番の関心事であったのだが…、正直、そうならば、これからは簡単に会うことは叶わない…。
自然とそう考えが至ってしまい、彼女にとっては誠に複雑な心模様ではあった。
「…とにかく、これからは自由が効かなくなるよ。それは間違いないから…。今度はいつ会えるかわからないんで、流子ちゃんとはやはりね…」
「うん。サダト兄ちゃんがテレビとか出るの、すごく嬉しいけど、やっぱり今までみたいに会えなくなるって思うと寂しいや」
流子は素直に、ありのままの気持ちを告げた。
ちょっと、ため息交じりのやるせなさもにじませて…。
それを受けたサダトは、こぼれ笑いを浮かべ、思いだしたようにその場に立ちあがった。
***
「磯彦おじさんには聞いたことがあるんだけど、浦潮が大きくうねると、ここの岩場から見えるらしいね」
「うん…。私もお父さんからそう聞いてる。…あの時、その渦にお兄ちゃん、呑み込まれちゃったんだもんね」
そう言って流子も立ちあがると、真正面に広がる遠い水平線に目をやりながら、彼女の方から先に”あの日”を口に出した。
サダトは顔を流子の方に向けると、彼女と視線を交わした。
ここで二人の脳裏には、”あの時の海”が一気にフラッシュバックするのだった…。
***
「あの時の記憶はさ、実はヘンな感覚なんだ。ハッキリ覚えてるようで、ぼんやりしてる感じもあって…。正確には全部思いだせないんだよ。確かにもう死んじゃうんだろうって思って、怖いって気持ちはあった。それはそうなんだけど…」
「私、8歳の時は何にもわからなかったから…。無神経なこと言っちゃってごめんね」
流子は単刀直入に言った。
「なんかさ、本気でオレのアソコ、心配してくれてるのがわかってさ。それなら、”本当のところ”を流子ちゃんにだけは告白しなきゃってね(苦笑)」
「うん…。”それ”、してくれんでしょ?」
流子はややいたずらっぽい目つきで、そう突っ込んだ。
そして、そんな彼女の表情をサダトは両の瞳で呑み込むように見つめていた。
「サダト兄ちゃん…」
彼の反応は、明らかに流子の予想していなかったものだったのだ…。
その年の夏が、サダトの大岬を訪れる最後になる…。
この時すでに、芸能界にデビューすることが決まっていたサダトは、今後、大岬に来て流子と会う機会はなかなか持てだろうないと判断し、浦潮に呑まれた時の約束を今回、果たすつもりだった。
2泊3日の行程で大岬に到着したその日、彼はあらかじめ流子と約束し、水泳部の部活が終わる時間に合わせ、磯浦の岩場で待っていた。
流子は午後4時15分きっかりに、自転車でやってきた。
「サダト兄ちゃーん!お帰りー!」
このあいさつは、ずっと以前から同じだった。
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「ただいま、流子ちゃん!アハハ…、水泳始めたって聞いてたけど、体格よくなったなー」
「アハハ…、胸もだいぶ大っきくなってきたよ」
「そうみたいだね」
二人は岩場に並んで座り、屈託なく、いろんな話をした。
流子からすると、アイドルグループとしてデビューしたことが、何と言っても一番の関心事であったのだが…、正直、そうならば、これからは簡単に会うことは叶わない…。
自然とそう考えが至ってしまい、彼女にとっては誠に複雑な心模様ではあった。
「…とにかく、これからは自由が効かなくなるよ。それは間違いないから…。今度はいつ会えるかわからないんで、流子ちゃんとはやはりね…」
「うん。サダト兄ちゃんがテレビとか出るの、すごく嬉しいけど、やっぱり今までみたいに会えなくなるって思うと寂しいや」
流子は素直に、ありのままの気持ちを告げた。
ちょっと、ため息交じりのやるせなさもにじませて…。
それを受けたサダトは、こぼれ笑いを浮かべ、思いだしたようにその場に立ちあがった。
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「磯彦おじさんには聞いたことがあるんだけど、浦潮が大きくうねると、ここの岩場から見えるらしいね」
「うん…。私もお父さんからそう聞いてる。…あの時、その渦にお兄ちゃん、呑み込まれちゃったんだもんね」
そう言って流子も立ちあがると、真正面に広がる遠い水平線に目をやりながら、彼女の方から先に”あの日”を口に出した。
サダトは顔を流子の方に向けると、彼女と視線を交わした。
ここで二人の脳裏には、”あの時の海”が一気にフラッシュバックするのだった…。
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「あの時の記憶はさ、実はヘンな感覚なんだ。ハッキリ覚えてるようで、ぼんやりしてる感じもあって…。正確には全部思いだせないんだよ。確かにもう死んじゃうんだろうって思って、怖いって気持ちはあった。それはそうなんだけど…」
「私、8歳の時は何にもわからなかったから…。無神経なこと言っちゃってごめんね」
流子は単刀直入に言った。
「なんかさ、本気でオレのアソコ、心配してくれてるのがわかってさ。それなら、”本当のところ”を流子ちゃんにだけは告白しなきゃってね(苦笑)」
「うん…。”それ”、してくれんでしょ?」
流子はややいたずらっぽい目つきで、そう突っ込んだ。
そして、そんな彼女の表情をサダトは両の瞳で呑み込むように見つめていた。
「サダト兄ちゃん…」
彼の反応は、明らかに流子の予想していなかったものだったのだ…。