*夜桜の約束?* ―再春―
「先に入れよ」

 点滅するルームナンバー下の扉の中へ、凪徒はモモを促した。

 一歩進んだ先の(あが)(かまち)にスリッパが二足並んでいる。

 下ろし立てのスニーカーを脱ぎ揃えて、その内の一足に履き替えたモモは、凪徒の邪魔にならないよう目の前のドアを押し開け室内に入った。

「……あったかい……」

 途端、蜂蜜のようにとろけた温かみが、冷えた頬に(まと)わりつき、モモは立ち止まって瞳を閉じた。

 けれどそれも一瞬の内で、

「モモ」

 後ろから続いてきた大きな影が、あの退団の意のくつがえされた時と同様に背後から抱き締め、モモは驚いて目を見開いた──その先には──入口のパネルで気に入ったベッドが視界全部を占めて、思いがけない脅威に心臓が大きく波立つ。

 そしてそれは凪徒も同じ想いであったらしく……

「お、俺、シャワー浴びてくるっ」

 慌てて手を放し(きびす)を返した背中に、自由になったモモも慌てて声を掛けていた。

「あ……せ、先輩、上着……」

「ああ? んじゃ、頼むっ」

 変な空気でおぼつかなくなったまま、何とか上着を()いでモモに放り、凪徒は独りバスルームに駆け込んでいった──。


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