*夜桜の約束?* ―再春―
「お前は馬鹿か」

「え?」

 両腕を膝小僧に伸ばし、せせこましそうな体勢で踏ん張っていると、呆れたように言葉が落とされた。

 モモは咄嗟(とっさ)に顔を上げる。

 ──すると、

「誰が隣に座れと言った。……こっちだ」

「えっ!」

 毛布をひるがえされ、すぐ横の左脚に軽くこづかれて、さすがに鈍感なモモも気付かされた。

 ──せ、先輩の……脚の……上……!?

「嫌だったらいい。……俺は帰るぞ」

 ほんのり()ね気味に返した凪徒は軽く腰を浮かせたが、モモは慌てて立ち上がり、その好意に甘える姿勢を見せた。

「いっ、嫌なんかじゃないです! しっ、失礼させていただきます!!」

 右手と右足が同時に出そうな勢いで、空けられたスペースにカチコチの身体を何とか収めてみる。

 けれど凪徒の(もも)の上に自分の体重を掛けることには気が引けて、やはり先程同様人間椅子になった。

「お前の体重なんて、たかが知れてるんだ。ちゃんと座れって」

「は、はい~」

 モモは恥ずかしそうに力を抜き、やがてその重みに満足したように、凪徒はモモの肩にも毛布の裾をふんわりと掛けた。

 ──せ、先輩の脚の上に座って、お、同じ毛布に、く、く、くるまれてる……!?

 モモは「もしも夢なら醒めないで!」と、心の中でお祈りをした──。


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