*夜桜の約束?* ―再春―
「俺は……モモが、好きだよ」



 ──えっ……──

 徐々に赤みを帯びる頬の熱は、触れる冷たい大きな手を次第に温めていった。

 ──い、今、何て言ったの? 先輩……だ、だ、誰を、好きって言った……? あ、あた、あたし!?

 モモはどんなに面映(おもは)ゆい気持ちがしても、その真剣な美しい双眸から、かち合った自分の瞳を逸らすことが出来ず、また一秒でも瞬かせることが出来なかった。

「モモは、俺をどう思ってる?」

 問い掛けられて、止められていた(とき)が流れ出した。

 恥じらうように真っ赤な顔を(そむ)ける。モモは少し(うつむ)いて、

「き……嫌いだったら、こんな所に、座れません……」

 ぽそっとそう答えるのが精一杯だった。

「ちゃんと、言えよ……」

 慌てて凪徒へ視線を戻したが、その声も眼差しも、普段見せたことのない悲しみの音と光を放っていて、モモは思わず言葉を(こぼ)していた。

「あ……」

「ちゃんと……自分の言葉で、ちゃんと言ってくれ──」

 ──先輩の……こんな辛そうな表情、初めて見た──

 モモは一つ小さく息を吸い吐き出して、凪徒の方へ少しだけ身体を向けた。

 両手で膝をギュッと握り締め、今でも片側だけ包まれている頬で凪徒に向き合い、震える(まつげ)の下の瞳にも力を込めた。


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