*夜桜の約束?* ―再春―
「……やっぱり、やめた」

 が、突然現れたふっ切られたような凪徒の(つぶや)きに、モモもやっと正気を取り戻した。

「──え?」

 途端に身体を包む力も抜かれ、モモはバランスを崩しながらも、両肩に置かれた手で身を支えられる。

 ──何をやめたんだろう……今言ったこと・されたこと、全部撤回なんてこと、ない……よ、ね……?

 次に続く句を怖れながら表情を(うかが)うと、いつもの不機嫌顔に戻った凪徒も、何かを決意するようにモモの顔を覗き込んでいた。

「もう散々我慢したんだ。我慢なんてやめだ。……行くぞ」

 ──ガマン?

 肩を(つか)んだ両手に力が入り、異様な気迫に圧倒された。

「えと……何処(どこ)へ……?」

 その問いに凪徒の瞳は一瞬揺らぎ、鼻の頭を微かに赤らめたが、そんな照れ臭さを払拭(ふっしょく)するように、サッと首を振り横顔を見せる。そして──


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