元カレと再共演することになりました

彼が浮気をした理由


私は休憩室でずっと台本を読み込んでいた。彼がそんなふうに思っていたなんて、私は微塵たりとも、気づいていなかった。

彼がデビューするまでは、私たち2人は、よく外へ出かけることができていた。

変装をしながらだけど、普通の恋人のようにデートをしていた。

でも彼がデビューしてからは、当然のことながら家でのデートばかりになってしまった。

でもそれでも良いと思っていた。

彼に会えるのならば。でもそれも難しくなっていったのだ。

 ある日、ドラマ番宣で出演したバラエティーでるいと一緒になった。私とるいは、違うドラマだったが、同じ局で同じシーズンに放送されるドラマに出演予定だった。そのバラエティーの休憩中のことだった。

『リサちゃん、今から俺と昼ごはん食べに行こうよ。』

当時ドラマで共演していた中年のベテラン俳優の須藤さんが話しかけてきた。須藤さんは、いつも私に構ってきて、セクハラ的発言をしてきたりもしていた。でも拒めなかったのは、このドラマに出演し続けるためだった。渋々返事をしようとしていたその時、彼が現れたのだった。

『す、須藤さん!お久しぶりです。今からご飯ですか?』

『おう。…るいか。』

須藤さんは、るいを見ると、バツが悪そうな顔をした。

「須藤さんも一緒にメシ行きましょうよ!僕話したいことあるんで!』

るいは、須藤と共にこの場を立ち去った。

彼は、いつも私を助けてくれる。しばらく彼に会えていなかった。私だったが、彼のさりげない優しさがこのときの私を癒してくれた。まだ彼は私のことを愛してくれているそう感じる瞬間でもあった。でもこの行動がいけなかったのだ。みんなが見ているところであの敏腕マネージャーの如月さんが気づかないはずがなかった。

須藤さんと彼がランチに行った後、私はテレビ局のロビーにある。ソファーでスマホを触っていた。そんな時に如月さんが話しかけてきたのである。

「佐藤リサさんよね?」

私は静かにうなずく。

「ちょっといいかしら?』

彼女は私を人目につかないところまで誘導した。彼女の話は、るいからよく聞いていた。最近涙に敏腕マネージャーがついたって彼女のおかげでるいはデビューすることができたし、グループも売れることができた。だけどすごく厳しい人だとも聞いた。恋愛はもちろんだし私生活についても厳しく徹底されるようになった。そう聞いていた。だから私は内心びびっていた。何を言われるのだろう。もしかしたら涙と付き合っていることがばれたのかもしれない。そう思いながらピクピクしていると彼女が急に立ち止まった。

「単刀直入に聞くけど、るいと付き合ってるの?』

私の予想は見事に的中した。彼女は私と夫が付き合っていることを見抜いたのである。嘘をついても仕方がないと感じた私は静かにうなずいた。

『やっぱりね。』

彼女は鼻で笑う。

「気づいてらっしゃったんですか?』

『ええ。映画の撮影の時から怪しいなぁとは思ってたけど、気づいたのは、最近よ。』

「そうなんですね…」

私は何も言えなくなってしまった。

「私は、あなたたちが付き合っていることには、反対は、しないわ。でもバレないで欲しいの。』

「…」

「るいは、今が肝心な時なの。あなたと違ってアイドルだから恋愛は、人気にも関わることなの。』

私はうなずくことしかできなかった。

「さっきのるいの行動を見ていて心配になったの。るいは、賢い子なのだけど、あなたのことになると周りが見えなくなるみたいなの。』

「はい。すみません。』

「だから会う頻度を減らしてほしいの。外はもちろんのこと家でも周りに記者がいないかに気を配ってね。』



私は、如月さんの言葉に返事をすることしかできなかった。それから私は、自分がるいの仕事に迷惑をかけてしまっているんだと思うようになってしまった。
だから彼が仕事で私とのデートをドタキャンした時も、電話さえも1ヶ月もくれなかった時も、何も言わなかった。言えなかったの。あなたに迷惑をかけてはいけないと思って。急に家に来てくれた日も、
誰かにバレてしまうのではないかと嬉しさよりも不安が大きかったの。

自分で決めたことなのに、あなたと会えない日々が増えていくと、あなたが浮気をしているのではないかと疑ってしまうようになっていた。

そしてそれが現実になってしまったの。

私があれだけ恐れていた週刊誌。

あなたは、私以外の誰かと簡単に撮られた。私の今までの努力はなんだったの?

彼が浮気をしたことの苦しみよりもそれが大きかった。

でも今なら分かる。彼が浮気をした理由が。

だって彼は、そんな私を見て、私が彼を愛していないと思っていたのだから。

あの頃の私たちは、すれ違いすぎていたのだ。
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