元カレと再共演することになりました
テレビ局での営業で彼と？
5年前にこう語った私だったが、そうは上手くいかなかったのだ。
5年前に主演女優賞を獲得し、女優として大活躍が約束されたはずだった。
だが現実は…
「planetプロダクションの佐藤です。よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」
マネージャーと共に毎日テレビ局で頭を下げ、自らを売り込んでいる。
いつからこんな生活を送っているのだろうか。
主演女優賞を獲得してから経った月日は、たったの5年。
私は、28歳となった。
5年前のあの日、
国民的女優の仲間入りを果たしたはずだったが、
人生そうは上手くいかないものだ。
私のデビューは、15歳の時。
国民的アイドルグループstrawberryのメンバーとしてデビュー。
同い年の安田みゆとグループのWセンターとして、活躍した。
自分で言うのもなんだが、当時国内で知らない者は、いないと言われた程の人気ぶりだった。
当時相方だったみゆは、グループ最年長として活躍中だ。
私もいっそのこと、グループに残っていれば、今もテレビにで続けられたのではないかとさえ思ってしまう。
話を戻すと、
アイドル業の傍ら、俳優業に力を入れ始めたのが18歳の頃だった。
そしてその勢いのまま、４年後、主演女優賞を獲得した。
それから数年、少女漫画原作のヒロインに抜擢されるなど、自分で言うのもなんだが、休む暇もないほどの人気ぶりだった。
だが今では…
「planetプロダクションの佐藤です。よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」
「今忙しいんだよ。見ればわかるだろ？」
「申し訳ございません。」
このように頭を下げ続ける日々だ。
念の為言っておくが、不倫した訳ではないし、不祥事を起こした訳ではない。
徐々に仕事が減っていた、ただそれだけのことだ。
「リサ、今日は原プロデューサーにご挨拶に行くわよ。」
授賞式でひたすらに「こ！」と叫び続けてくれた命の恩人とも言える鬼頭マネ。
今日もトレードマークの茶髪ボブヘアに、グレーのスーツの袖をまくり、気合いを入れている。
「よし、いくわよ。」
「はい！」
今日も彼女と共にテレビ局を走り回る。
「よろしくお願いします！」
「よろしくお願いします！」
強化部活の監督と選手のように、同じ言葉を繰り返し叫ぶ。
ピンポン。
エレベーターの音が鳴り響く。
音が鳴った方を見渡してみると、
遠くの方から、
白いTシャツ、首元には薄ピンクのスカーフ、手には丸めた台本を持ち、反対側の手でそれを叩きながら、周りのスタッフたちと雑談をしている男性。
The昭和なテレビ局のプロデューサーらしき人。
そのらしき人に向かって擦り寄っていくうちのマネージャー。
「原プロデューサー、お世話になってます。planetプロダクションの鬼頭です。」
この人が原プロデューサー。
彼の作品に出た者は、必ず売れると言われている敏腕プロデューサーだ。
私もかつて彼の作品に出演し、名をこの世に知らしめた1人である。
「お〜鬼頭ちゃん。久しぶりだね。どうしたの？」
丸めた台本の動きを止めて、私たちの方へと目を向ける。
「今度恋愛ドラマを制作されると伺いまして…うちの佐藤をヒロインとして出演させて頂けないかと思いまして…」
「ああ。佐藤さんね。」
そう言って、分かりやすく人差し指で鼻の下を擦りながら、悩んでいるフリをする。
私には、わかる。
この人は、困っている。嫌がっている。断られる。
私には分かるのだ。
ぼーっと見つめていると、鬼頭さんに手を叩かれる。
「あ！…は、はじめまして！佐藤リサと申します。よろしくお願いします！」
私は、感情を押し殺して大きな声で挨拶をした。
だが彼は、私の顔を見ると、嫌そうな顔をした。
まあそれは、そうだろう。
旬が過ぎ去った28歳の女優をヒロインに起用するメリットなどないからだ。
それは、自分でもよくわかっている。
まあいつものことだからいちいちこんなことでヘコんでいる場合ではない。
次だ、次。
そう思っていると、
「佐藤は、以前原さんの作品に出演させて頂いたこともありますし、主演女優賞も獲得したこともある実力者です。かならず原さんのご期待に答える女優だと思います。」
マネがものすごい勢いで再び私の宣伝を開始した。
これが10年以上、大手芸能事務所でマネージャーをしている人間の営業力か。
「ああ…もう8年も前のことだろ？」
負けじと原さんも嫌な態度を取り続ける。
「…ま、まぁそうなんですけど、これからまだまだ佐藤は、伸び代のある人材なんです。どうにか考えて頂けないでしょうか？」
卓球やバトミントンのようなラリーが続く。
ラリーが続けば、続く程、私のメンタルと自尊心が少しずつ削られていく。
「いや、き、気持ちは分かるよ。でもうちもさギリギリなんだよ。最近テレビの視聴率が低迷してるからさ、どうにか見逃し配信で視聴率を取れる若手アイドルにしてくれって上から言われてんだよ。」
原さんが同情してもらう作戦なのか、弱めのスマッシュを打った。
すると、
「そ、そうなんですね…」
さすがの鬼頭さんも折れたようだった。
ちなみに私の心は、すでに折れていた。
「おう。ごめんな？鬼頭ちゃん。」
原さんは、鬼頭さんの顔色を伺った。
彼は、彼女の機嫌を取るために、衝撃的なひと言を放ったのだった。
「あ！そういえば、山口さくらちゃん、新しく所属になったって聞いたよ？あの子は？あの子ならヒロイン起用できるよ？」
こんなことを本人の前で言われてしまうまでに私は落ちぶれ女優なのだ。
さすがの鬼頭さんも私の顔色を伺っている。
申し訳ない限りだ。
「や、山口ですか…実は山口は、他の作品に出演することが決まっておりまして…こ、今回は、佐藤をと思っております。」
「そうか…か、考えておくよ。」
「ありがとうございます。」
ようやく言葉のラリーが終わり、鬼頭vs原の試合が終了したようだった。
「あ！西園寺るいくんじゃないか！」
先程まで下を向いていたプロデューサーが、声色を変えた。
るいだった。
彼にもう一度会える日が来るなんて。
彼との再会が私の人生をこんなにも変えてしまうなんて、この時の私は、気付いていなかった。
5年前に主演女優賞を獲得し、女優として大活躍が約束されたはずだった。
だが現実は…
「planetプロダクションの佐藤です。よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」
マネージャーと共に毎日テレビ局で頭を下げ、自らを売り込んでいる。
いつからこんな生活を送っているのだろうか。
主演女優賞を獲得してから経った月日は、たったの5年。
私は、28歳となった。
5年前のあの日、
国民的女優の仲間入りを果たしたはずだったが、
人生そうは上手くいかないものだ。
私のデビューは、15歳の時。
国民的アイドルグループstrawberryのメンバーとしてデビュー。
同い年の安田みゆとグループのWセンターとして、活躍した。
自分で言うのもなんだが、当時国内で知らない者は、いないと言われた程の人気ぶりだった。
当時相方だったみゆは、グループ最年長として活躍中だ。
私もいっそのこと、グループに残っていれば、今もテレビにで続けられたのではないかとさえ思ってしまう。
話を戻すと、
アイドル業の傍ら、俳優業に力を入れ始めたのが18歳の頃だった。
そしてその勢いのまま、４年後、主演女優賞を獲得した。
それから数年、少女漫画原作のヒロインに抜擢されるなど、自分で言うのもなんだが、休む暇もないほどの人気ぶりだった。
だが今では…
「planetプロダクションの佐藤です。よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」
「今忙しいんだよ。見ればわかるだろ？」
「申し訳ございません。」
このように頭を下げ続ける日々だ。
念の為言っておくが、不倫した訳ではないし、不祥事を起こした訳ではない。
徐々に仕事が減っていた、ただそれだけのことだ。
「リサ、今日は原プロデューサーにご挨拶に行くわよ。」
授賞式でひたすらに「こ！」と叫び続けてくれた命の恩人とも言える鬼頭マネ。
今日もトレードマークの茶髪ボブヘアに、グレーのスーツの袖をまくり、気合いを入れている。
「よし、いくわよ。」
「はい！」
今日も彼女と共にテレビ局を走り回る。
「よろしくお願いします！」
「よろしくお願いします！」
強化部活の監督と選手のように、同じ言葉を繰り返し叫ぶ。
ピンポン。
エレベーターの音が鳴り響く。
音が鳴った方を見渡してみると、
遠くの方から、
白いTシャツ、首元には薄ピンクのスカーフ、手には丸めた台本を持ち、反対側の手でそれを叩きながら、周りのスタッフたちと雑談をしている男性。
The昭和なテレビ局のプロデューサーらしき人。
そのらしき人に向かって擦り寄っていくうちのマネージャー。
「原プロデューサー、お世話になってます。planetプロダクションの鬼頭です。」
この人が原プロデューサー。
彼の作品に出た者は、必ず売れると言われている敏腕プロデューサーだ。
私もかつて彼の作品に出演し、名をこの世に知らしめた1人である。
「お〜鬼頭ちゃん。久しぶりだね。どうしたの？」
丸めた台本の動きを止めて、私たちの方へと目を向ける。
「今度恋愛ドラマを制作されると伺いまして…うちの佐藤をヒロインとして出演させて頂けないかと思いまして…」
「ああ。佐藤さんね。」
そう言って、分かりやすく人差し指で鼻の下を擦りながら、悩んでいるフリをする。
私には、わかる。
この人は、困っている。嫌がっている。断られる。
私には分かるのだ。
ぼーっと見つめていると、鬼頭さんに手を叩かれる。
「あ！…は、はじめまして！佐藤リサと申します。よろしくお願いします！」
私は、感情を押し殺して大きな声で挨拶をした。
だが彼は、私の顔を見ると、嫌そうな顔をした。
まあそれは、そうだろう。
旬が過ぎ去った28歳の女優をヒロインに起用するメリットなどないからだ。
それは、自分でもよくわかっている。
まあいつものことだからいちいちこんなことでヘコんでいる場合ではない。
次だ、次。
そう思っていると、
「佐藤は、以前原さんの作品に出演させて頂いたこともありますし、主演女優賞も獲得したこともある実力者です。かならず原さんのご期待に答える女優だと思います。」
マネがものすごい勢いで再び私の宣伝を開始した。
これが10年以上、大手芸能事務所でマネージャーをしている人間の営業力か。
「ああ…もう8年も前のことだろ？」
負けじと原さんも嫌な態度を取り続ける。
「…ま、まぁそうなんですけど、これからまだまだ佐藤は、伸び代のある人材なんです。どうにか考えて頂けないでしょうか？」
卓球やバトミントンのようなラリーが続く。
ラリーが続けば、続く程、私のメンタルと自尊心が少しずつ削られていく。
「いや、き、気持ちは分かるよ。でもうちもさギリギリなんだよ。最近テレビの視聴率が低迷してるからさ、どうにか見逃し配信で視聴率を取れる若手アイドルにしてくれって上から言われてんだよ。」
原さんが同情してもらう作戦なのか、弱めのスマッシュを打った。
すると、
「そ、そうなんですね…」
さすがの鬼頭さんも折れたようだった。
ちなみに私の心は、すでに折れていた。
「おう。ごめんな？鬼頭ちゃん。」
原さんは、鬼頭さんの顔色を伺った。
彼は、彼女の機嫌を取るために、衝撃的なひと言を放ったのだった。
「あ！そういえば、山口さくらちゃん、新しく所属になったって聞いたよ？あの子は？あの子ならヒロイン起用できるよ？」
こんなことを本人の前で言われてしまうまでに私は落ちぶれ女優なのだ。
さすがの鬼頭さんも私の顔色を伺っている。
申し訳ない限りだ。
「や、山口ですか…実は山口は、他の作品に出演することが決まっておりまして…こ、今回は、佐藤をと思っております。」
「そうか…か、考えておくよ。」
「ありがとうございます。」
ようやく言葉のラリーが終わり、鬼頭vs原の試合が終了したようだった。
「あ！西園寺るいくんじゃないか！」
先程まで下を向いていたプロデューサーが、声色を変えた。
るいだった。
彼にもう一度会える日が来るなんて。
彼との再会が私の人生をこんなにも変えてしまうなんて、この時の私は、気付いていなかった。
