空旅
 ポツポツと小雨が降るように涙が落ちる。

 次第に強くなっていって、もうポツポツじゃ済まなくなった。



「ふぅ……、嗚呼……っ」



 何度君の名前を呼んだことだろう。



「#./_○……」



 名前を呼んでも、彼の名前だけノイズがかかったようにズズズ……っと聞こえる。

 この世から存在自体を消そうとしているんだ。

 名前さえも思い出せなくしているんだ。

 想像力を膨らませてみても、おかしな、むしろ自分から言っておいて自分が一番悲しむことを考えてしまった。



「ぅあ……っ」



 それに、周りは酷い目で見てくる。

 周囲の人たちには、真っ赤に染まった炎は見えていないらしい。

 というか、それ以前に島さえも見えていないらしい。

 もうすでに記憶を抜き取られたのだろう。

 そして、あたしがまだ記憶をうっすら残している最後の人……。



「くぁ……っ、ぅ……」



 いつかあたしも同じように、他と同じように、なってしまうのだろうか。

 そしてアイツの存在自体さえ忘れて、アイツは元から生きていないも同然。

 そんな判定になってしまうのだろうか。



「やぁ、だあ……ぁっ」



 溢れんばかりの涙を、抑えることは出来なかった。

 周りは独り泣く泣くのあたしを見て、おかしそうに目を細める。

 みんなみんな、ついさっきまで島の放火をひっしりと見たというのに。

 今じゃあたしを不思議に思っている。

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