僕と彼女と傷痕
「だから、無理矢理風吹の傍にいるんじゃないよ。
僕が……僕自身が風吹の傍にいたくているんだよ。
風吹になら、僕は全てを捧げても惜しくない!
………………あの事故の後、風吹は僕を少しも責めなかった。
風吹は、僕の命の恩人。
風吹がいなかったら、僕は今頃……
だから僕は━━━━━━━」

風吹は、玄匠に抱きついた。

「ふぶ…き…?」
「ありがとう!
ありがとう、玄匠くん!」

「うん…」
驚いたように目を見開いた、玄匠。
でもすぐに、風吹を包み込むように抱き締めた。



後日、二人は風吹のアパートにいた。
手続き等は玄匠が全て済まし、今は風吹のアパートで荷物の選別をおこなっていた。

「ん?この段ボール何?」
「え?あ、オリジナルスイーツレシピ集!」

「へぇー!結構あるね!」
「うん!
中二の時からのだから、凄いよ!
私の宝物!」

「そっか!
これ、全部風吹が考えたレシピ?」

「うーん…
自分で考えたのもあるけど、好きなパティシエがいてその人のレシピ本の切り抜きとか、写したり。
色々だよ!」
「好きなパティシエかぁー、誰なの?」
幸せそうに話す風吹に、玄匠も微笑み言った。

「香月 祥太朗さん!
イケメンさんで、テレビにも出てるんだよ~!」
「え?」

玄匠の顔から、笑みが消えた。
機嫌が悪くなっていく、玄匠。

「今度、イベントがあるの!」
そんな玄匠には気づかず、イベントのハガキを見せようとする風吹。

「………」
「ほら、見━━━━━玄匠くん?」

そこでやっと、玄匠の雰囲気に気づいた風吹。
玄匠の顔を覗き込んだ。
「興味ない」
「え?」

「僕以外の男なんて、興味ない━━━━━」
「え━━━━━」
そのまま風吹を押し倒した。

「風吹」
いつになく真剣な表情の、玄匠。
玄匠を包むオーラも、なんだか黒い。

「え?」
「ダメ」

「え?え?」
「ダメだよ」

「え?」
「ダメだ」

「な、何?」
風吹の両手をカーペットに縫いつけ、額を風吹の額にくっつけている、玄匠。
何度も“ダメ”と繰り返す。

「僕以外の男のことなんて、好きにならないで?」
黒い雰囲気とは真逆の、弱々しいすがるような声。


風吹は、玄匠への愛しさが増していた。

「うん…大丈夫だよ。私が好きなのは、玄匠くんだよ」
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