僕と彼女と傷痕
唯一
「━━━━━社長」

そんなある日。
玄匠は、社員に飲みに誘われていた。

「ね?たまには行きましょうよ!」

会社を立ち上げ当初から、仕事終わりはすぐに風吹に会いに行っていた玄匠。

当然、社員と食事をしたことない。

「うーん、でも……彼女を一人にしたくないし……」

「えー!
ほら!業績も順調だし、みんなでこれからも頑張ろうってことで!
社長~」

確かに、たまには社員達を社長として労わなければ。
そう思った、玄匠。

風吹に断りをいれ、飲み会に向かった。



「━━━━カンパーイ!!」
居酒屋で、飲み会が始まった。

「みんな、いつもお疲れ様。
これからも、大変だけどよろしく頼むよ!」
玄匠が微笑むと、女性社員達が見惚れる。


「━━━━━━社長の彼女さんって、どんな方なんですか?」
女性社員の一人、大貫(おおぬき)が絡むように寄ってきた。

それを怪訝そうに顔を歪め、さりげなく距離を取る玄匠。

「んー?
可愛い人だよ!
優しくて、控え目で……」
「へぇー!」

「確か……◯◯で働いてるんですよね?彼女さん」

「は?知ってるの?」
「はい。この前、店の裏から二人が出てくるのが見えたので」
「そう」

「確かに、可愛い彼女でした!」
「へぇー!
今度俺、行ってみようかな~」

「会えない」

「へ?」
「店に行っても、会えないよ」

「え?なんですか?」
「厨房勤務だから。
接客はしないんだ、彼女」

「なーんだ!残念」

“僕の風吹に勝手に会いに行かないで”
そんな思いを込めて、牽制し言った玄匠。
社員はそんな玄匠に気づいてるのかいないのか、残念そうにビールを飲み干した。


それから解散になり、店前で別れる。
「じゃあ、みんなお疲れ!」

「ごちそうさまでした!」
「お疲れ様でした!」

社員達は、それぞれ散らばる。

玄匠も、風吹に連絡を入れる。
『今から帰るね(^^)』
とメッセージを送り、駅へ向かおうとしていた。

「━━━━━社長!」
そんな玄匠の腕を掴み、大貫が声をかけてきた。

「あ、大貫さん。お疲れ。帰らないの?」
「帰っても……一人だし、寂しくて……
社長、もう一軒付き合ってください!」
玄匠の腕に絡みつくようして、上目遣いで見る。

「………」
「社長?」

こんな女、嫌いだな……

高校の時もそうだった━━━━━
こうやって下心見え見えで近づきて来て、一度お茶をしただけで彼女面。

“御清水 玄匠の彼女”と周りを牽制し、玄匠をステータスをして扱っていた。
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