僕と彼女と傷痕
「何なのよ……」

「いや、何なのよって、お前が何なのよ。
さすがに酷いよ、大貫。
…………俺も退いた…
何?お前、社長が好きなの?」

「………」

「だからって、あれは最低だぞ。
社長が知ったら、悲しむぞ?
俺だったら、キレる。
彼女のこと、そんな風に言われたら」

「うるさい!
早く、会社戻りましょうよ!」



一方の風吹━━━━━━

「━━━━なんで、言い返さないのよ!!」
呂麻が怒って言った。

「なんか…その通りだなって思って……
言い返せなかった…」

「御清水は!」
「え?」

「風吹に完全に惚れてるわ!」

「呂麻…ちゃん?」

「わかんないの!?
“あの”クールな御清水が、風吹にだけは甘い顔してる。
それって、好きだからでしょ?
私とタケのこと冷めた目で見てた御清水が、風吹と同棲を始めた。
これも、好きだから!
あーんなんてしたり、可愛いを連呼したり、ペアピアスも、全部ぜーんぶ!
風吹を本気で好きだから!」

呂麻の顔が、悲しく苦しそうに歪んでいた。

「そう…だよね……」

「御清水を、信じなよ!」


マンションに帰りつき、洗面所でうがいをした風吹。
そのまま、鏡に映る自分を見ていた。

“今回のデザートの新作のことも、そうだよ!
風吹はもっと、御清水を信じて何でも相談するべきよ!
もっと、御清水を頼ってあげなよ!”

呂麻が別れ際言った言葉だ。

“私、タケに言われたことがあるの。
心配かけたくないとか、疲れてるだろうからって気を遣われるよりも、助けてって頼ってもらった方が何倍も嬉しいって。
男はそんなもんだよ?”

「よし!」
風吹は、気合いを入れて洗面所を出た。


その頃玄匠は、仕事が終わり会社を出ていた。

「御清水」
「ん?あ、呂麻だ」

「ちょっといい?」
「ん」

会社前のベンチ。
並んで座る、玄匠と呂麻。

「何?僕、早く帰りたいんだけど」

「本心を聞かせてほしいの」

「ん?」

「風吹のこと、今はどう思ってる?」

「好きだよ、どうしようもなく。
償いとは関係なく、風吹の為に生きていきたいくらい好き」

「本心を聞いてる」

「本心だよ。
タケの彼女に、嘘はつかない」

「だったら、伝えておく」
呂麻は、大貫とのやりとりを玄匠に話した。

「………」
「━━━━━━━私が口出すことじゃないの、わかってる。
これは、御清水と風吹の問題だし。
でもあまりにも酷すぎだから、どうしても許せなくて……」

「………わかった」


「これ以上、風吹を傷つけないで!
私の、大切な親友なの!」
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