僕と彼女と傷痕

風吹は、玄匠の雰囲気に不安が押し寄せる。

｢玄匠くん！｣
｢………｣

｢玄匠くん！！｣
｢……っあ！何？｣
考え込んでいた玄匠が、微笑み言う。

｢怒って…る…？｣
｢ううん。風吹に怒ることなんて、何もないよ！｣

｢みっちゃんはただの━━━━━｣
｢あのさ！｣

｢え…！？｣

｢その呼び方、やだな…｣

｢え？玄匠くん…｣

｢僕より、あの人との方が仲良く聞こえるから｣

｢う、うん…じゃあ、光弥くんって呼ぶようにする｣

｢うん。
風吹のこと、好きすぎて…こんな小さなことでも嫉妬しちゃうんだ……ごめんね…｣

｢でも！私が好きなのは、玄匠くんだよ！｣
｢うん｣

｢ずっと一緒にいたいのも、玄匠くんだもん！｣
｢うん｣

｢私の方が、先に好きになったんだもん！｣
｢うん｣

｢みっ…光弥くんは、ただの幼馴染みだよ？｣
｢うん｣

｢だから……信じて…？｣
｢うん。わかってるよ？
ほんとに、くだらない嫉妬しただけ。
ごめんね、風吹｣

玄匠が顔を寄せる。
額と額をくっつけた玄匠は｢風吹、大好き…｣と呟いた。


後日。
風吹の勤めるカフェに、光弥が現れた。

｢いらっしゃいませ｣
｢呂麻ちゃん！久しぶり！｣

｢え？光弥さん？｣
｢ふぶちゃんいる？｣

｢え？あ、はい。
でも風吹は、厨房なんです。だから……｣
｢そっか｣

｢でも、もうすぐ終わりますよ｣
｢そうなんだ！じゃあ、コーヒーでも飲んで待ってようかな？｣

｢あ！じゃあ、風吹考案のケーキ食べますか？｣
｢うん。もらおうかな？｣


呂麻がケーキを持ってくる。
｢どうぞ？｣
｢ありがと！
━━━━ん！旨っ！｣

｢でしょ？評判がいいんですよ！｣

｢へぇー！ふぶちゃん、頑張ってるんだ！
店を持つ夢に近づいてるんだな！｣

｢でも……店は…｣
｢え？｣

｢あの子、事故で耳が不自由になったんです……
だから、店を持つのは……｣

｢あ、そう言えば…補聴器つけてたね。
………………ねぇ、なんで事故に遭ったの？｣

｢それは、本人に聞いてください｣

｢たぶん、教えてくれない。
ボーッとしてて事故に巻き込まれたの？って聞いたら、笑ってそうだって言ってたから｣

｢そうですか……｣

｢━━━━━━呂麻ちゃん、教えてくれない？｣