恋愛観測
「ここじゃ星は見えないって?」
「うん、そう思ってた」

 毎晩のように見上げていた満天の星空が、ここにはないと、都会は、灰色の雲に覆われた怠惰な、人工光だけの世界だと思ったから。

「でも、そうじゃないってわかっただろ?」

 屋上で天体望遠鏡を使って見た、天体たち。周囲で瞬く恒星。都会でも星は見える、都会の夜空だって捨てたもんじゃない、そのことを日雀は香子に教えてくれた。
 香子はこくりと頷く。そして、日雀に近寄り、耳元で囁く。

「見えないんじゃなくて、見ていないんだね」
「都会に暮らしてる人間は、確かに時間に囚われているかもしれない。でも、そうじゃない奴らも少なからずいる」
「ヒガラくんみたいに?」
「そ」

 頷きながら、香子の左手に優しくふれて、日雀は指を絡める。香子もそれに応えるように、指先に、力を込めた。
 焦らなくてもいいんだよと、言われたような、そんな気がした。
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