恋愛観測
2
三月に突然決まった父親の転勤。引っ越すことになった家族。高校二年の春に余儀なく編入することになった香子。
田植えの新緑を見ることなく、都会と呼ばれるコンクリートジャングルに足を踏み入れて一ヵ月半、四捨五入すれば二ヶ月……
友達はたくさんできた。それなりに自分のポジションは手に入れたと思う。だけど。
……どうせあたしは田舎モノだから。
かわいい女の子がたくさんいた。自分なんか全然駄目だと思った。真っ白な靴下履いて始業式に臨んだ時点でもう時代遅れなんだと痛感した。
とはいえ、もともとさばさばした性格の香子は、開き直りも早い。だから始業式で失態を犯した翌日からは彼女たちと同じような紺のニーソックスを履き、誰とでも談笑し、新しい人間関係を築きはじめた。引越しや編入試験には戸惑ったけど、実際に始まった新しい生活は辛くない。むしろ新しいことだらけで一ヶ月が無我夢中で過ぎていったけれど。
しょせん自分は主役になれない女の子。都会に出てきた田舎モノ。映画にでてくるエキストラの女子高生Aにすらなれやしない。そういったコンプレックスに、なぜか押しつぶされていく。ホームシックとは異なる、別の感情が蠢く。
……あたしがここにいてもいいの?
自分はここにそぐわない、場違いじゃないかと。
まるで、都会の空気に溶け込むことを誰かに拒まれているような、そんな錯覚に陥っていた。