恋愛観測
「はぁ」

 ずかずかと入っていく日雀の後をおそるおそるついていく香子。彼によって開かれた扉の向こうに見えたのは。
 事務机と小さな冷蔵庫、電磁調理器と水道の蛇口、青インクで『五月六日みずがめ座η流星群極大』という暗号のような文字が記されたホワイトボード、飲みかけの紅茶、教科書だけでなく図鑑や資料がぎゅうぎゅうに詰められている本棚、床の上に積まれている図表とプリントの山……そんな、地学の先生の生活感が垣間見える部屋。そして片隅には。

「……天体望遠鏡!」
「最新型なんだ。ついてこいよ、特別に見せてやるから」

 真新しい白い天体望遠鏡を軽々持ち上げて、廊下へ歩いていく。

「……いいの?」

 勝手に持ち出していいんだろうかと不安そうな表情の香子を見て、呆れたように日雀は呟く。

「俺、天文部員だもん」

 すたすたと屋上へ続く階段を上っていく日雀。

「そっか、部活か」

 彼の言葉に納得した香子は、足音が遠くなっていることに気づき、小走りで後を追う。
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