恋愛観測



 あと少しで午後六時。部活動の延長届が出されていれば、七時まで大丈夫だったはずだ。屋上の入り口に差し込む陽光の眩しさに、二人は手をかかげ影を作る。
 西陽が学校の建物を照らして、世界を橙色に染め上げていく。屋上で望遠鏡をセットしている日雀の影が、佇んだまま仕草を見守っている香子の影と重なり合う。
 屋上ではジャスミンの白い十字架形の花が咲き乱れていた。天に伸ばすように緑の蔓が屋上の柵に絡まっている。若葉の合間から顔をのぞかせるたくさんの支子色の花は、ほんのり甘い、鼻孔をくすぐる芳香を漂わせている。
 天体観測にはまだ早い時間。それなのに日雀は三脚を広げ、西の方角をしきりと気にかけている。高層ビル群の合間を狙って、彼は望遠鏡の配置を決めた。

「日の入りまでまだ時間あるんじゃないの?」
「今日の日没は十八時四十二分。だけどもう見える」
「……日が暮れないと星は見えないのに?」

 日雀を手伝おうと遮光板と呼ばれる板を立てかけながら、香子は首を傾げる。それを見て日雀はにやりと不敵な笑みを見せる。
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