恋愛観測
「俺は恒星が嫌いだって言っただろ?」
望遠鏡が示す先にある天体……それは。
「遮光板そこでいいよ。肉眼でも見えるけど、レンズ越しに見た方がよくわかるから。ほら見えた!」
あかく燃える、太陽。
「真ん中のあたり。黒いの。わかる?」
レンズを覗き込んでいるにも関わらず、彼に肩を掴まれる。彼は夢中だ。香子にもわかるくらい、夢中になっている。
太陽の中のほくろのような黒点に。
「今年は黒点0756の活動が活発だから、よく見えるんだ。ガスの塊である太陽が自転することで黒点は生まれるんだよ。磁場が表面から分離するから。だけど太陽だって地球と同じように自転しているから、黒点も生まれてはすぐ消えていく。こうして観測できるのは表面に現れているときだけ。明日だと裏側に周って隠れて見えないだろうから……」
自転する太陽。想像したこともなかった。香子は饒舌に語る日雀の解説を内耳に留めながら、目の前で繰り広げられる自然の摂理をまばたきせずに見つめつづける。
「今日も大伊さんが地学室に残ってたら、教えてあげようって思ったんだ」
星が嫌いな天文部の男の子は、太陽に負けないくらいの明るさで、潔く香子に告げる。
「好きだろ、惑星?」