恋愛観測
「のぞいてごらん」
促されて、香子はレンズを覗き込む。
「……ピンポン玉みたい」
墨染の夜空に浮かぶピンポン玉。その横で蛇行するように光っている星の群れは?
「ヒガラくんって星座詳しい?」
今の時期なら春の大曲線が見えると思うんだけど、と香子が尋ねる。だが、恒星には興味がないらしく、日雀はきっぱり否定する。
「ぜんぜん」
「何それ。天文部員らしくないよ」
「まともに星座覚えるとどうなるか知ってるか? 星占いの黄道十二星座、まぁ黄道十三星座と言ってもいいんだけど、それ以外にも北天十九星座、南天十二星座にプトレマイオスの四十八星座……多少被ってるのもあるけど、今現在天文観測家が公式に認めている星座の数は八十八あるんだ。全部覚えられるわけねえだろ?」
まるで恒星に喧嘩を売っているかのように日雀は熱く語る。まともな星座については知らないと言ってるくせに、彼はかなりマニアックな知識を披露している気がする。
「はちじゅうはち……そんなにあるんだ」
「先輩が星座詳しいから、なんとなく話は聞いてるんだけど。八十八もあるって聞くとイヤにならない?」
俺はうんざりだ、と夜空を見上げながら大仰に溜め息をつく。レンズから顔を離し、香子は静かに尋ねる。
「だから、嫌いなの?」
「まあ、な」
困惑した表情で、日雀は頷く。そして腕時計を見て、そろそろ下校時刻だと気づいた二人、そそくさと天体望遠鏡を片付ける。
夜は、はじまったばかり。