一人三脚(いちにんさんきゃく)/SF&ホラーショートショート選②

ハイ、チーズ!

ムツオの意識は遥か遠い日にさかのぼっていた

”…今度は押田だな。じゃあ、いいぞ”

”押田ムツオ…、靴のサイズは21.5です!”

”よし、みんな…”

○○小学校4年A組の担任である嶋野先生は、後ろに控える3年A組のみんなに小声でそうゴーサインを出した

その直後…、”ハイ、チーズ!”という元気な声が秋晴れの校庭にこだました

この日、カレを含めクラス全員27人が、右足を花壇の隅に踏み込ませてのポーズ写真を撮ったのだ

ニンゲン10年目、それ以降を強い足取りで前進していくという決意…、
そんな主旨であった

その全員の撮影風景は動画ファイルに複製変換され、A組27人の手元に渡った

言わば、このん十年前の○○小学校におけるひと時は、彼らにとって幼き日のメモリアルとして残るのだった

卒業アルバムのように…

だが、その後の押田ムツオにとって、”それ”は心を和ませるような代物ではなかった

サイズ21.5の靴跡…、ムツオにとって、この残像は永遠の息吹を伴った自分の分身となり、脳裏の奥深くに住み着いてしまったのだ

***

”またあの夢かよ!一体、いつまでなんだよ…。あんなガキの頃のオレなんか、とっくに別人だって!”

ムツオは成人した後も、定期的に21.5サイズの小さな靴跡が夢の中に訪れ、何やら語りかけてくるのには、いい加減うんざりしていた

しかし、30を過ぎ、職場の取引先で受付をしている園田アイコという年下の女性と親しくなり、結婚前提のハッピーな日々を手に入れると、カレの夢にソイツが現れることはなくなった

その間、2年半は…




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